斑(擬人化)×夏目
□『好奇心と出来心』
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ある日の昼下がり、唐突に夏目は言った。
「先生、お願いがあるんだけど…」
招き猫の姿の妖、ニャンコ先生を両手で目の高さまで抱えあげて、いかにも『お強請だりします』的な仕草で夏目は見詰めた。
「なんだ?」
いぶかしみながらも、一応聞いてやる。
「ちょっとだけでいいんだけど、元の姿に戻ってくれないか?」
夏目としては、ニャンコ先生の機嫌のいい時を狙ったつもりだ。
「七辻屋の饅頭、買ってあるんだ。あとで食べるだろ?」
もちろん、賄賂も準備済み。
ニャンコ先生の瞳が、キランと光る。
「そいつを先によこせ!」
抱え上げられたまま足をバタつかせて、ニャンコ先生は暴れた。
「わっ、ちょっと駄目だよ。先生が、俺の願いを叶えてくれる方が先だろ」
その途端、恨めしそうなジットリとした瞳で夏目を一睨みしながらも、ニャンコ先生は溜め息混じりに言った。
「しょうがない奴め」
「やった! …あ、あと、急に塔子さんが来たら困るから結界も張って欲しいな」
「なにッ、割に合わんぞ!」
とかなんとか文句を言いながらも、ニャンコ先生はドロンと化ける――もとい元の斑の姿になる。
同時に部屋の空気が変わって、夏目にも結界が張られたことが判った。
そして目の前には、真っ白でフカフカで長毛の、まるで古いファンタジー映画に出て来たドラゴンのような妖怪が現れる。
「…戻ったが」
斑は金色の瞳で、チロッと夏目を見下ろした。
「有り難う先生! 一度やって見たかったんだ」
何をと訊く前に、夏目はパフンと真っ白い毛の中に全身で飛び込んだ。
「気持ちいー」
そう例えるなら、先日触らせて貰った塔子さんの、ラビットファーのマフラーみたいな手触りだ。
そうして更には長い胴体を転がるように、ゴロゴロと体を移動させて堪能し始めた。