名夏、置き場
□『忘れ灯篭』
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誰かに、呼ばれた気がした。
意識せず夏目は、そちらへ足を向ける。
そう、夏目は眠っているはず。だから、これは夢なんだと思った。
辺りは暗い。でも、真っ暗闇では無い。何故なら、淡く小さな炎が照らしているから。
空気の流れに、その身を揺らしながら。
「灯篭」
ポツンと呟いた。炎が身を置くのは、灯篭だった。実際に火のついた、それを見るのは初めてだ。
不思議なことに、あれが呼んでいるのだと気付いた。知っていたと言ってもいい。
――さあ、おいで。
音無き声が、そう手招きしていた。
「夏目、いつまで寝ておる。起きろ朝だぞ」
ドスンと、まだ布団の中で微睡む夏目の体の上に、何かが乗った。
「重い…」
振り払う前に、それは移動して、目を開けた時には、不自然に表情のある招き猫が正面の至近から覗き込んでいた。
「うわっ」
夏目は、布団を跳ね退けて飛び起きる。
「なんだ大袈裟な奴め」
大袈裟って、そりゃあ起きぬけに目の前に招き猫のアップがあったら、普通驚くんじゃないだろうかと思う。それに。
「お前、猫のくせに何で喋るんだ!? しかも、姿も変だ」
「夏目…?」
ニャンコ先生――斑は、いぶかしんで名を呼んだ。