名夏、置き場
□『待ち人来たりて』
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「まずい、まずいぞ…」
名取は焦っていた。
名取には年下の恋人がいる。高校生の男の子だ。
出会った瞬間ほとんど一目惚れで、最初のアプローチで式を飛ばしてしまったくらいだ。
名前も家も判らない子だったから、使えるモノを使って、そうして所在を突き止めた。
それから半年以上かけて、やっと落としたのだ。
順調に手を繋ぎ、キスをして、最後に会った日には身体も繋げて。我ながら、恥ずかしくらい初心な手順を踏んでいた。
そうして大切に育んだというのに、最後に会ってから既に三ヶ月も過ぎていた。
名取は最近売れ始めた俳優だ。ただし表の話で、裏では怪祓い人をしている。その両立だけで、目まぐるしい忙しさで結局、恋人のことが後回しになっていた。
しかもタイミングが悪すぎる。これでは若い子を騙して身体だけを奪って捨てる、ロクデナシのようだ。
TELでフォローはしているものの、はたしてどこまで功をそうしているか。
つい最近話した時は、さすがに少し不機嫌だった。
早く、なんとかしなければ――。
「名取さん、お願いします」
女性スタッフの声に、名取はハッと我に返る。今は、雑誌の取材用の写真を撮るのに、準備が出来るまでの待ち時間だった。
「はい、今行きます」
返事をして愛想笑いを浮かべると、女性スタッフはかすかに頬を染める。
こんな時にも比べてしまう。
「夏目の方が、可愛い」
仕草も表情も、何もかもが。
こうなったら、さっさと終わらせて、何がなんでもオフをもぎ取らなければ。
名取は心の中で握り拳を握ると、強く誓った。