名夏、置き場
□『君と、ドライブ。』
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海だ、海だ、海だ!
「海だ…」
助手席に座る夏目の心は躍った。実は海に来るのなんか、初めてなのだ。
子供の頃は、夏休み前後になると羨ましくてしかたなかった。
誰かが楽しげに話している、家族と行った海水浴の話。
いいなと思っても、口に出来なかった。
今は空もずいぶん高い。とうにそんな季節も過ぎて、海岸線の道もすいている。
でも快晴の空が反射する海は青く、キラキラ輝いて綺麗で。
初めて見る水平線、大きなテトラポット。そんな些細なものが真新しく、夏目の瞳を輝かせた。
ハンドルを握る名取は、その様子を横目にクスリと笑う。
それにも気付かないで、夏目は一心不乱に助手席の窓の向こうに夢中だ。
連れて来てよかったと、思った。
切っ掛けは何でもない会話。
『海に行ったこと無いんです』
そんな夏目の一言だった。
家庭の事情は、何となく聞いていて、その台詞から、子供の頃の夏目の寂しさを感じてしまった。
でも、ならば、そんな思い出なら、これから作ればいいのだ。