名夏、置き場

□『触れたがり。』
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「どうした、夏目?」

「え…、と」

 あんまりにも真剣に、ジッと見詰めてくる夏目を不思議に思い、名取は問い掛けてみた。

 けれど夏目は答えながらも気もそぞろで、目線だけは、やっぱり何かを追っている。

 別にいいのだ。いいのだけれど、目線の先が自分を向いているのが、名取は堪らない。

 そんな純粋で真っ直ぐな目を向けないで欲しい。

 髪と同じ色素の薄い瞳は酷く澄んでいて、何に夢中なのかキラキラしている。

 そんなに見詰められたら、ドキドキしてしまうじゃないか。

 当然そんな心の声は、夏目には聞こえない。

 ジッと一点、ちょうど名取の顔の何処かに視線を止めたかと思ったら、そろそろそろと手を伸ばしてくる。

 それが頬の辺りを触れようとした、その時。

 その手を名取は掴まえた。

「そんな風に近付いたら、キスしちゃうよ?」

「は?」

 夏目は、キョトンと見上げた。何を言われたのか解らなかったのか、随分あどけない表情をしている。

「だから…」

 実行してみた。チュッと軽い音をたてて、一瞬だけ唇を奪ってみる。

「ね?」


「え…、ええ――――…!!」

 夏目は可愛いそうなくらい真っ赤になると、後退った。

 さっきまでは肩も触れそうな位置に並んで、二人TVを見たりしてたのだけど。

 名取の悪戯のせいで、床に直に座った状態で夏目は、手を伸ばしても届かない距離まで離れてしまった。

「こーゆーこと、するよって言ったんだよ」

「こここ…こーゆーって、いきなり何するんですか!?」

 狼狽えた様子の夏目は、口元を握りこぶしの甲で隠すように塞いでいる。

 拭われなくてよかったと、実は胸を撫で下ろした名取だ。

 それに年甲斐も無く、トキメイテいる。

 こんな子供だましなキス一つが楽しいなんて、何年ぶりだろうか。

「夏目は、もしかしてファーストキスかな?」

 重なるからかいに、夏目は言葉なく更に顔を赤く染める。

 その様が可愛いとか、我ながら、らしくなく可笑しいと名取は思う。

 まだ子供で、しかも男の子だ。

「なるほど、ラッキーだったな」

「ラッキーって。べつに、は…初めてなんて、言ってないじゃないですか!?」

「へえ意外だ、初めてじゃないんだ」

「え! …と、それは…」


 目を泳がせた後、黙り込んだ夏目に、それ以上の追求は可哀想かと止めた。

「ところで夏目はさっき、何をそんなに一所懸命に見ていたの?」
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