名夏、置き場
□『初詣、後日談』
1ページ/3ページ
「初詣に行ったんです」
年が明けて、やっと叶った初めての逢瀬。その日、夏目はうっすら淡く頬を染め、名取に向かってハニカンだ。
名取の胸に、ふと浮かんだのは嫉妬だ。
年甲斐もなく醜いとも思うけれど、恋をすると人は、少し子供っぽくなるのかもしれない。
「誰と行ったんだい?」
平静を装って、板についた作り笑いで問い掛けると、気付かない夏目は、嬉しそうに答える。
「クラスメートです。…俺、そういうの初めてで」
名取は内心で、小さく舌打ちする。全ての初めてを、夏目と共にと思っていたのだ。
年末年始。売り出し中の俳優は、結構忙しい。1月からのドラマの撮影と、番宣に、バラエティ出演までこなさなくてはならなくて。
その間に、すっかり出遅れてしまった。なら、取り戻すまで。
「ねえ、夏目」
「なんですか?」
首を傾げる夏目が、信頼しきった無防備さで名取を見上げる。
「実は、まだ初詣に行けてないんだが、これから付き合ってくれないか?」
今は、もう一月も中旬で、土曜日とは言え、神社もすっかり落ち着いている頃だろう。
「ええ、いいですよ」
心なしか、答える夏目の声は弾んで聞こえる。その理由は、彼の次の台詞で知れた。
「あの、俺…。名取さんとも行けたらな…って、思ってたから、嬉しいです」
そう言った夏目は、初春の優しい日差しの中、輝くような笑顔を浮かべていた。
「そうか」
真っ直ぐな好意を乗せた眼差しは、名取を赤面させるに十分な威力で。らしくなく、誤魔化すように顔を逸らした。