名夏、置き場

□『初詣、後日談』
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「初詣に行ったんです」

 年が明けて、やっと叶った初めての逢瀬。その日、夏目はうっすら淡く頬を染め、名取に向かってハニカンだ。

 名取の胸に、ふと浮かんだのは嫉妬だ。

 年甲斐もなく醜いとも思うけれど、恋をすると人は、少し子供っぽくなるのかもしれない。

「誰と行ったんだい?」

 平静を装って、板についた作り笑いで問い掛けると、気付かない夏目は、嬉しそうに答える。

「クラスメートです。…俺、そういうの初めてで」

 名取は内心で、小さく舌打ちする。全ての初めてを、夏目と共にと思っていたのだ。

 年末年始。売り出し中の俳優は、結構忙しい。1月からのドラマの撮影と、番宣に、バラエティ出演までこなさなくてはならなくて。

 その間に、すっかり出遅れてしまった。なら、取り戻すまで。

「ねえ、夏目」

「なんですか?」

 首を傾げる夏目が、信頼しきった無防備さで名取を見上げる。

「実は、まだ初詣に行けてないんだが、これから付き合ってくれないか?」

 今は、もう一月も中旬で、土曜日とは言え、神社もすっかり落ち着いている頃だろう。

「ええ、いいですよ」


 心なしか、答える夏目の声は弾んで聞こえる。その理由は、彼の次の台詞で知れた。

「あの、俺…。名取さんとも行けたらな…って、思ってたから、嬉しいです」

 そう言った夏目は、初春の優しい日差しの中、輝くような笑顔を浮かべていた。

「そうか」

 真っ直ぐな好意を乗せた眼差しは、名取を赤面させるに十分な威力で。らしくなく、誤魔化すように顔を逸らした。
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