創作小説・「苦労人」シリーズ

□知らない涙
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翔の前で大泣きしたことがある。



寂しさと悔しさで、胸がいっぱいになり涙が零れた。

親を恋しいと初めて思ったんだ…。







翔「はあ?マンション水道工事中なの?」
「そう…。大掛かりでさ、危ないからしばらく出てって言われた…」
翔「で、どーすんの?」
「実家は…嫌だから、ホテルに泊まろかなって」
翔「金もったいないなぁ〜」
「仕方ないだろーよ」
翔「なんなら俺ん家来る?」
「いいのか?」
翔「別にいいよ」
「ありがとう!(金浮いた!)」

仕事が終わり、翔の車に乗り込む。
何て言うか…
「汚い…」
助手席に大学の教本や服が散乱している。
全てを後部座席に放り投げ、座る場所を確保する。
車は部屋じゃないよ、と諭そうかと思ったが…
翔「丁寧に扱えよ!必要な物なんだから」
「必要な物なら乱雑に扱うな!」
どこに座る場所があったんだ!
「お前…部屋もこんなに汚ねーの?」
翔「……」
「はあ…寝る場所はある?」
翔「俺のベッド…」
「シングルだよな?」
翔「はい」
「男二人で寝れねーだろ!片付けるぞ!」
翔「はい…」

家に着き、玄関を開けると…何かがぶつかってきた。
翔「こら!修!」
「弟か?」
翔「うん、ごめんな?」
「いや、驚いただけだから」
足元にしがみついている弟くんは不思議そうに俺を見上げている。
「だれ?」
翔は弟くんを抱き上げ、目線を合わせる。似てるなあ…。
翔「兄ちゃんの仕事仲間の壱くんだよ」
「はじめまして。壱です。小さいなあ〜!いくつ?」
修「6歳!」
13歳離れてんのか…
翔「修、母さんは?」
修「台所!今日はカレーだって!」
翔「そうか、挨拶する?」
「当たり前だ」
挨拶は基本。礼を欠くことはしたくない。
台所に案内され、母親に紹介してくれた。
翔「藤原壱。メンバーなんだ」
母「まあ、翔がお世話になってます」
「お世話してます」
翔「なってないわ!」
「恥ずかしがるなよ。本当のことだし」
翔「壱!」
「冗談だよ。いきなり来てすみません」
母「気にしないで。一人暮らし大変でしょう?実家だと思ってゆっくりしてね」
翔のお母さんは優しく微笑んでくれた。
母「翔の部屋で寝る の?」
翔「片付けるよ。今から…」
「手伝うわ(仕方なく)
翔の後ろを歩きながら後ろを振り返ると…
修くんがおばさんに抱きつきながら、楽しそうに会話している。おばさんは慈しむように修くんの背中を撫でている。
その様子を見て、何故だか分からないが…胸が痛んだ。


「お前…マジで?」
部屋のドアを開けてびっくり。
タンスからはみ出している服達、CDが散乱している机。埃がかぶっているコンポ。床には雑誌と辞書。
座る場所無し。
「よく家来いって言えたな…」
翔「返す言葉がありません」
「だろーよ!おらっ!掃除すんぞ!」
翔「イエッサー!」

黙々と本棚を整頓していく。
難しい経済学の本や、小説がたくさんある。
並べ終え、後ろに振り向くと…
翔は漫画を読んでいた。
「誰が手伝ってやってると思ってんだ!」
翔「ごめん!超ごめん!」
「ったくよ!」
翔「真面目にするから!」
「当たり前だ!」

約四時間で綺麗になった。
翔「おお!床が見える
「疲れたぁ〜」
翔「サンキュー!」
「俺がいる間、部屋汚したらぶっ飛ばすかんな」
翔「頑張る」
「絶対な!」

コンコンッ。
ドアをノックして入って来たのは…
「お兄ちゃんご飯…部屋綺麗!何で?!魔法?!」
翔の妹の舞ちゃん。
「おい、魔法だってよ」
翔「失礼な奴だな!」
舞「だって!この部屋の床久々に見た!」
「久々?」
舞「うん。この部屋、綺麗だったこと少ないし」
「お前、どんだけだよ!」
翔「人には得手不得手があんだよ!」
「超がつく程に不器用だもんなぁ」
舞「まあ、私も人のこと言えないけどね…」
この兄妹は…。
翔「さっ、飯食うか。早く行かないと母さんに回し蹴りされる」
「バイオレンスな家庭だな…」
翔「すげー痛いんだよ!」
舞「食べ残してもされるからね」
「お前の母さん、アグレッシブだな」

リビングに行くと、おばさんと修くんが椅子に座って俺達を待っててくれた。
母「今日はカレーにした。鍋いっぱいに作ったからたくさん食べてね」
席につき、目の前の器を見てびっくり。
俺の器は、オードブル用の大きな物。他は普通の皿なのに。
いや、嬉しいけどさ、やり過ぎじゃね?
「あの…」
母「翔が壱くんは大食いだって言ったから。家で一番大きな皿を用意しました」
翔「母さん…ナイス!」
「……」
母「盛るのが楽しく成っちゃって!」
翔「食える?」
「楽勝…」
母「それでは!」
翔・壱・舞・修「いただきま〜す」
俺は、遠慮せずにお代わりをして、カレーを三杯食べた。
櫻井家の大黒柱のカレーが無くっなってしまったが、おばさんは嬉しそうに「いいのよ!帰り遅いし、食べてくるから」と言ってくれた。
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