SHORT

□ボンゴレ式修学旅行 Varia ver.4
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「…………………………」

 旅館のとある一室にて、五人が円になって座っていた。
 それぞれの右手には、
トランプ。
 静寂の中、スクアーロが口を開いた。

「最初はぁっ」
「グー」
「…………」
「何パー出してんだボス!!」
「………………」
「チッ……
いくぞぉ、じゃんけん、ゔお゙いっ!!」

やけに気合いの入った掛け声と同時に、五人は空いているほうの手を出した。

「……
ししっ、I'm winner!」
「負けた、だとぉっ!?」
「あら〜〜残念だわ〜〜」
「くっ!!」
「……………チッ……」

じゃんけんの結果に、そこまで一喜一憂する暗殺部隊は、鳩以上に平和を象徴しているようだ。

「じゃ、オレから時計回りな。
スクアーロ、カード出せよ」

 更に暗殺部隊は今からババヌキを行おうとしているのだった。
 平和だ。

「命令すんなガキィ!!」

と、言いつつもスクアーロは大人しくベルに引かせた。
 ベルは取った一枚を見て、ニヤリと笑った。

「ラッキー、被りみっけ♪」
「な゙っ………………くっそ、
ルッスーリア!!」
「はいは〜〜い」

スクアーロはルッスーリアから乱暴に、一枚奪った。

「ゔお゙ぉ゙おい!?
ババ当たったじゃねぇかぁ!!」
「もう、いちいち叫ばないの。
つまらないじゃない。
それじゃ、レヴィ」
「…………………」
「あ、8がそろったわ」
「なぬっ」

ルッスーリアはハートとダイヤの8を捨てた。

「ボスッ……」

 椅子の上のXANXUSはレヴィを睨んだ。

「下手なカード抜いてみろ」
「死にます」

レヴィがカードを一枚抜き取った。

「ぬ…………」

どうやら被りはなかったらしい。

「んじゃ、ボスどーぞ」
「…………」

XANXUSも被りは無かった。

 眉間にぐっ、と皺を寄せる。

「しししっ、後いちまーい」
「んだとぉ!?」
「王子に負けなし♪
さっさと引かせろよ」
「くっ…………」

ベルは喜々として一枚取った。
「…………」
「ぃ゙よぉ゙お゙おしっ!!」
「あんたわかりやすいわねー。ほんっとつまらないわよ…………」
「あんだとぉ!?」

ごもっともな話である。

「………………………ぬ? 
ベルがジョーカーを引いたのか?」
「理解すんのおせーよ、タコ」
「タコォッ!?」

相変わらずレヴィは鈍かった。
 
「一気に勝ち上がるぜぇ……!!」

スクアーロはカードを引き抜いた
が、被りはなかった。

「なんでなんだぁぁぁ!!」
「スクアーロ、貴様いちいち五月蝿いぞ」
「あ゙ぁ!?
やんのか!?」
「喧嘩しないの!!」

ルッスーリアは溜息を一つすると、レヴィからカードを一枚取った。

「上がりね〜〜〜〜」
「なぁ゙っ!!」
「なぬぅっ!?」

捨てられたハートとダイヤの2を見てスクアーロとレヴィは更に声を荒げた。

「なんでてめぇが一番なんだぁ!!」
「貴様、ボスより先に勝つなど失礼きわまぐぬぉぇぁっ」
「…………」

XANXUSは、黙ってレヴィの頭に踵落としをくらわせた。

「早く引け、カス」
「も、申し訳ありません!
では………………ぬ!?」

レヴィは、スペードとハートの9が被ったようだ。

「チッ…………おい」
「どーぞ」

XANXUSは、又もや被り無しだったらしい。
 奥歯がギリギリ鳴る。

「…………うししっ。
さっさと終わらそ♪」
「させるかぁ!!」

しかしベルはスクアーロのカードから被りを引き当てた。

「おしまーい」
「こンのカスがぁっ!!
ゔぁ゙ぁ゙ぁぁあ!!」

スクアーロは雄叫びを上げながらレヴィのカードを一枚奪ったが、
やはり被りが無い。

「………………」
「あら、スクアーロ黙っちゃったわ。なんか、それはそれで不気味ね」
「しししっ、同感。
あ、レヴィも後一枚じゃん。
ボスより先に勝つのかよ」
「ぅぬっ!?
ぬ……う…………
ボス、手札を交か」
「死ね」
「…………」

レヴィはしょげ返った。
そして、引いたのは結局被りだった。

「………………」
「ド畜生が……!」

ここにきて、いよいよXANXUSの不機嫌さが増した。
 カードが音を立てて握り潰される。

「や、やばくね?」

 ベルはスクアーロに目配せした。
 しかしスクアーロは全く気づかない。
 スクアーロはXANXUSのご機嫌取りは嫌いなのだ。

「ゔお゙ぉ゙ぉお゙い!!
手加減をするつもりはねぇぞぉ、XANXUSゥ!!」
「うっわー……」
「ちょっとスク!!」
「…………ふん……」

 ビシッとカードを突き付けるスクアーロを一瞥し、XANXUSは余裕の表情で椅子に座りなおした。
 空いている右手の人差し指を、招くように動かす。

「あの………………ボスが、引く番ですが……」
「…………うるせぇよ」

XANXUSは漸く被りを取った。
 少し満足げに二枚捨てる。

「ゔお゙ぉい!!
オレとてめぇが残ったって事は、どちらかがババ持ってるって事になるなぁ」
「………………」

XANXUSの眉が僅かに動いた。

「オレは持ってねぇ
っつー事は…………?」
「は、くだらねぇ」



 数分後。

壮絶な戦いの末、とうとうスクアーロのカードは二枚、XANXUSのカードは三枚になった。

「ゔぉ゙ぉい! 来やがれぇ」
「………………」

XANXUSはスクアーロからカードを取ると、ダイヤとハートのKを捨てた。

「決めるぜぇ」
「………………」

スクアーロはXANXUSが持つ、最後の一枚を引いた。

「あがりだ」
「オレもあがりだぁ!!」

 スペードとクローバーの10がたたき付けられるように捨てられた。


















「ん゙?」
「あら。
二人とも、あがっちゃったわね」
「やはりボスは負けないのだっ」
「色々違くね?」
「なっ、ババ何処行ったぁ!」

スクアーロは辺りを見回した後に、XANXUSを睨みつけた。
XANXUSは一人、明後日の方向を見ている。

「…………」
「…………………」
「…………オレを見つめんじゃねぇよ、気色悪い」
「てめぇ…………ババ何処にやったんだぁ」
「あぁ?」

XANXUSはスクアーロに向き直った。

「オレの勝利を邪魔する物は全て、



かっ消したまでだ」
「燃゙、や゙、し、やがったんだなぁあ゙!?
ルールぐらい守れぇ!!」

 よくよく見ると、XANXUSの椅子の右側に灰らしき物質が落ちている。
 明らかにジョーカーの残骸だ。

「んまあ〜〜〜〜さっすがボス!!」
「ししっ。かっきー!!」
「ボ、ボスぅぅう!!」

 スクアーロの周りから歓声が上がった。

「てめぇら、XANXUSを支援すんじゃねぇ!!」
「貴様こそボスの信念を軽々しく否定するな!!」
「あんだとぉ!!」
「しししっ、闘い?
だったら、王子も参加したいんだけど」
「おやめなさいって!!」
「ゔぉ゙おぉ゙ぉ゙ぉおい!!」
「ぬぅぉぉぉぉぉぉぉぅ!!」
「うっせぇ!!」

XANXUSの右手が強い光を発した。
スクアーロ一同は動きを止め、水を打ったように静かになった。

「ドカスが」

XANXUSは鼻で嗤うと憤怒の炎を収めた。

「……ってなんで黙んねぇといけねーんだよ!!
お前のせいだろ、オレがキレてんのはぁ!!」
「てめぇがキレなけりゃいいだろが」
「理不尽すぎるだろ!!」

スクアーロは憤慨して畳上のカードを蹴飛ばした。

「カルシウム足りてねぇのかよ、てめぇは」
「だからおま、」

 そこでスクアーロは言動をストップした。
 銀色の瞳孔が暫く泳ぐ。

 みるみるうちに獲物を見つけた獣の如く口角が釣り上がり、鋭い歯が覗いた。

「そーいや、ボスさんよぉ」
「……?」

 スクアーロはニタニタしながら、XANXUSの肩に手を置いて、顔を近づけた。

「ウイスキーくせぇ」
「誰のせ……じゃなくて…………、罰ゲーム、あっただろ!!」

 XANXUSは、ハッとしたような表情を浮かべた。

 ババ抜きをする前に、罰ゲームをしようという話になっていたのを思い出したのだ。
 言い出しっぺはXANXUSなわけだが。

「あれだろ?
負けた野郎は全員の言うこと一日中聞かねぇといけねぇんだったよなぁ?」
「…………」
「なぁにがいいかなぁ………………心配すんなって、そんな酷いこたぁしねぇぜぇ…………!!
いやぁ、にしてもお前、おいしいぜぇ……!!」

 馴れ馴れしく肩を叩かれて、XANXUSは顔をしかめた。

「あ」
「ん?」

XANXUSは顔を背けて、窓の外を指差した。
 キョトンと目を開いている。

「マグロのカルパッチョが浮遊してる」
「えっマジ!?
どこどこ!?」
「あっち」
「ゔぉお!!」

スクアーロは瞳を更に輝かせて、窓に張り付いた。
 外側から見れば相当不細工に見えるまで、顔をくっつけて、XANXUSが指差した方向を凝視している。

 XANXUSは、黙って成り行きを見ていたレヴィ、ルッスーリア、ベルに一瞥をくれた。
すかさず空気を読んで三人は、スクアーロを全力で突き飛ばした。

 この部屋にはバルコニーがない。
したがってスクアーロは、ガラスをバリーンと突き破って、下に転げ落ちていった。

 XANXUSは、何事もなかったかのように椅子から立ち上がった。

「風呂行くぞ」
「はい」
「ええ」
「うん」


スクアーロという男は、つくづくおいしい人種である。

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