■短編夢小説

□■戦士の鎮魂歌
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ある晴れた日。聖域の裏手にある日当たりの良い斜面に、美矢は寝そべっていた。
小さな野の花が咲き乱れ、そよそよと風が吹きぬける、実に気持ちの良い日だった。

周囲を見渡せば、そこに立つは無数の石碑。名前、宿星、位を彫っただけの簡素な墓。
比較的新しい物から、苔むし崩れかけているものまで、状態は多岐に渡った。
その中の一つに美矢がつと手を伸ばした。愛おしそうにざらざらとした石の表面を撫でる。
鑿で彫られたその墓の持ち主の名前は・・・

「美矢!こんな所で何をしている?」
「シュラ・・・別に。お昼寝をしてたら、貴方の墓を見つけたから・・・」

そう、墓に彫られた真新しい名前は「シュラ」
アテナが聖域に乗り込んできた戦の際に紫龍に破れ、冥王ハーデスによって蘇らされるまで彼が眠っていた墓だった。
横にはサガ、デスマスク、アフロディーテの墓もある。

「良い思い出では無いが・・・俺は教皇シオンを殺したサガに従い、アイオロスを手にかけ、神聖なるアテナに逆らった。その罪を忘れぬよう、己を戒める為に今でも残してあるのだ。」

シュラの顔は曇り、思い出す記憶のせいか時折表情が揺れていた。

「何を言っているのシュラ。貴方はハーデスによって蘇ってまでアテナを、沙織を助けようとした。冥界の深部で、嘆きの壁で全力を尽くした。アテナはとっくに貴方達を許しているわ。」
「美矢・・・」

美矢はニコっと笑うと体を起こし、墓地の端へ歩き始めた。

「美矢、何処へ?」

不思議そうにシュラがついてゆくと、そこには苔むし、半分崩れたような墓碑の転がる一帯があった。
美矢が立ち止まり、つと一つの小さな墓を指差した。

「あれが私の墓よ。」

RYUTYS SAGITTARIUS GOLD

半分欠け苔に覆われた墓の表面から、かろうじてその文字を読み取ることができた。

「・・・お互いこうして生きているのに、己の墓があるというのも奇妙なものだな。」
「本当ね、しかも貴方は二度生き返り、私は500年前より一度生まれ変わったわ。」
「そして今こうして二人で居る・・・まさに奇跡としか言いようがない。」

そう言いながらシュラは美矢を抱き寄せ唇を奪った。
美矢も彼の首に腕を回しながら甘いキスをする。

「きっと私、シュラに会う為に生まれ変わったのよ。」
「なら俺も、美矢と添う為に生き返ったのだな。」

クスクス笑いながら、二人は野の花の咲く原へ倒れ込んでいった。

「愛してる、美矢」
「私もよ・・・」

心地よい風が吹きぬける。
恋人たちに降り注ぐ陽射しは、優しい金色の光を帯びていた。
 

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