長編

□NO.1
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1.

バダップは、脱走者がいるという近辺を駆けながら、『ミッション遂行』の為の考え事をしていた。




彼らしいと言えば彼らしいのかもしれない。






腐るほど存在する研究所の人間を――脱走したからと捕獲する意味は?

――いや、あるいは、その脱走者が実力者ということか――?






そんな思考をはらみながら。

バダップの視界は、いつも通りのコンディションで作動していた。

一匹の蟻――いや、一粒の粉さえ見逃さない。

そんなバダップの効率性は――今彼がいる、地下水路などの暗闇でこそ発揮されるだろう。

勿論――、彼はそれを実行した。
そして、その結果――。




泥に塗られた服を着た――何とも麗しい『脱走者』を、バダップは見つけた。




そしてその容姿を見――総監督から聞いた特徴に該当させる。

それにより、その者が脱走者だということを再確認する。



性別は女、髪は漆黒で長め。瞳――も黒。



80年前ならいざ知らず、今現在においては珍しい色彩。

年齢は俺と同じ程度。




そんな風に情報を脳内で唱えながら、目の前でふらついている少女に近づく。

勿論――リラックスしたように見えるが、これはバダップ流の臨戦態勢だ。


全神経を張り詰めている。


それに対し――脱走者である少女は、常人ならばするであろう警戒を一切しなかった。

バダップが目の前にいることすら気づいてないのだろうか。

脱走者にとって敵のはずのバダップに近づいてゆく。



綺麗なはずのその目は、既にうつろまなこだった。




確か、脱走をし始めて既に16時間以上経っていたのだったか。


バダップは、少女がくたびれている理由を、『戦略』と称しつつ脳内から手繰り出した。

少女とバダップの距離が1m以内に煮詰まったところで――。







バダップが、少女に仕掛けた。








その指の先端にまで神経を行き渡らせた掌底で――少女の心臓を突こうとする。

殺しはしない。

ミッションは『捕獲』すれば完遂に至る、だから少しの間、肉体を封じるだけだ。


だがその思惑は――少女の行動により打破される。


少女はバダップの掌底を、見切り、見極め、見取り、そして。

あろうことかそれを、搦め、捌き、そして躱しきった――、






そのあとに、続けて。






本当に、瞬間的な時間、一刹那の時間で――少女はバダップに『反撃』を喰らわした。

頸動脈を軽く叩くという――『反撃』を。

それにより、バダップ・スリードは、その意識を沈ませてしまった。


そうなる前に垣間見たのは――。



















その理由がバダップにはまるで見当の付かない――少女の涙だった。
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