『…赤司くん』
「ん?」
『ちょっともういい加減に離し「何か文句でも?」…ないです』
さっきから抱き着かれて数十分。いくらもがいても暴れてもびくともしない。
部活帰りの彼に問答無用で引きずられ、彼の部屋であろうここに連れて来られた。
親は出かけてていないし、別に遅くなっても構わないのだが、場所が場所だけにマズイものがある。
『わたしもう帰らないと』
「今日親はいないんだろ?」
『まぁ…そうなんだけどって何で知ってんの!?』
「なまえ、煩い」
『……』
ダメだ。
この暴君には何を言っても通用しない気がする。
仕方がないので相変わらずくっついてる彼に体重を預けた。
「なまえ?」
『…抵抗するの疲れた。それに眠い…』
「…ふふ」
うとうととまどろんでいると赤司くんの綺麗な指がさらさらと髪を梳く。
バスケ部の人達と話している時とは違い、優しい音色が耳に心地よい。
「随分無防備だね。男の部屋にいるってのに」
『赤司くんが連れて来たんでしょ…。それに…』
「それに?」
『…赤司くんの体温、安心する』
「ふぅん…」
『うゆっ!?』
あまりの眠たさにここが赤司くんの部屋だということも忘れ、本格的に眠りに入ろうとした瞬間、一瞬身体が浮きベッドへと寝かせられた。
「そんなこと言ってると襲うよ?」
否、押し倒された。
はっと気付いた時にはもう遅く、身体を脚で挟まれ、手首はベッドへと縫い付けられる。
『やっ、何…』
「…なまえ」
『や、やだっ、赤司くんっ!』
華奢な体格の割に力は強くて。
こちらを見る瞳は何だか怖くて。
頬にひんやりとした手が添えられ、ぎゅっと目を閉じた。
『…っ』
「…仕方ない」
ちゅっ
何とも可愛らしい音と共に、唇に柔らかいものが触れた。
『…ふぇ?』
「今日はここまでで我慢してあげるよ」
そっと目を開けると至近距離に赤司くんがいた。
ってか今あたったものって…
『なっ、な…』
「一回じゃ足りなそうだね。もう一度しようか?」
『っ、結構です!』
拘束が緩んだ隙にがばりと身体を起こして、一目散に彼の部屋から逃げ出した。
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「…」
脱兎のごとく逃げていった彼女の背中を見送り、ベッドへと腰を降ろす。
押し倒した時の泣きそうな声に欲情したことを知ったらなまえはどんな顔をするのだろうか。
「…危なかった」
ふぅ、と呟いた一人ごとは彼女の耳に届くことはなかった。
初めて感じた君の唇と体温
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