「なに突っ立ってるの。座ったら?」
『う、あ、はい』
どうしようどうしよう。
「もちろん来るよね」と脅しに逆らうことなどできず、赤司くんのお宅へときてしまった。あたしも高校生だし、男の部屋に上がることがどういうことを意味するかは分かっていないわけではない。
だから距離を置いていたのに。いとも簡単に連れてこられてしまった。
なるべく彼から離れるように床に腰を下ろしたら、不満だったのか眉を寄せた。
「なぜそんな遠くに座る」
『き、気のせいです!』
「もしかして何かされると思ってる?」
すべてを見透かすかのような瞳に、あたしの考えなんかお見通しな訳で。
視線を合わせないようにさまよわせていたら、いつの間にやら至近距離に彼がいた。
『ひっ!』
「…そんなに警戒されると悪戯したくなるな」
『!!あ、あたしもう帰りま…ぎゃっ』
トンと肩を軽く押され、情けなく床にひっくりかえってしまった。
あわてて体制を立て直す前に、彼がのしかかってくる。
『やっ、やだ!離れてっ』
「こんなおいしい状況、僕が逃すはずないだろ?」
『だ、誰か助け…んんうー!』
煩いとばかりに奪われたファーストキス。
容赦なく舌も入ってきて、思考回路がぼやけてくる。
『んんっ、ふぅ…』
「は…」
『はふっ、んぅっ…』
息継ぎの仕方なんか、分かるはずもなく。
何度も何度も重なった唇が離される頃には、すっかり酸欠になってしまった。
『はぁっ、はぁ…』
「息しないと苦しいよ?」
『…!!』
ニヤニヤと笑いながら言われ、悔しさやら恥ずかしさやらでわなわなと身体が震えた。
『人のファーストキスを奪っといてよくもぬけぬけと…!』
「ああ、僕が初めてか」
『っ…』
「なまえ、可愛い」
ふいに言われた言葉にびっくりして視線を合わせると、とても優しい目をした赤司くんがそこにいた。
大切なものを包むかのように頬に両手が添えられる。
『な、なに、急に…』
「なまえ」
『んっ』
今度は軽く唇同士が重なる。
なまえ、と繰り返す彼の声はとても心地よくて。
「ねえ、僕と付き合ってよ」
『…はい』
うっかり返事をしてしまったのでした。
身も心も捕まえた
(って順番が逆!いきなりキスするなんて…!)
(何か問題でも?)
(…ないです)
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