短編

□鳥籠少女
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ガチャ…


「帰ったよ、なまえ」

「…おかえり、なさい」



スーツ姿の、そのひとは。

シュッとネクタイを緩めて微笑んだ。

高そうな腕時計や磨かれた靴。一目でお偉いさんだと分かる程、それは彼にしっくりきていた。

そんな人が、なぜ。


「どうして、ですか?」

「ん?なんだい」

「何で、あたしのことを…」

「ふふ。何度も言っただろう?」



ずーっと閉じ込めて置きたいほど、なまえが可愛いからだよって。



ぞくりと、背筋が凍った。

口元は笑っているのに、目には鋭い光が宿っている。

逃がさない、そう言っているように…。



「あれ、全然食事に手をつけていないじゃないか」

「…食欲がなくて」

「だめだよ、ちゃんと食べないと。ほら口開けて」

「…」


ふるふると首を振れば、スープを口に含んだ彼の唇があたしのと重なる。

すっかり冷めてしまったスープと、生温い彼の舌。スープが無くなってもお構いなしにあたしの中を暴れまわっていた。


「…ん」

「はぁっ、は…」


ようやく唇が離れたと思ったら、今度は彼の腕の中。


「ねえなまえ。欲しいものある?週末買い物に行こうか」

「…何もいらない。いらないから、」



家に、帰りたい…。


静かな部屋で呟いたその言葉は、やけに大きく響いた。


「…変なこと言うね。なまえの家は此処だろ?」

「ちがう…あたしの、家は…きゃっ!」

「今日は随分と反抗的だな。躾直さないと」

「い、いやっ、いやだぁっ…!」

「…黙れ」



ねえ、何でこんなことになっちゃったの。



「あはは!氷室さんって面白いですね!」

「そうかい?本当のことを言ったまでだよ。本当に可愛いよ。なまえ」

「っ…」

「照れてる?」

「うっ、うるさいですよ!」



数か月前の、幸せだったころの記憶。


いつから、彼はこんなに変わってしまったんだろう…。



「うっ…い、あ」

「お前は俺のものなんだよ。なまえ」



薄れる意識の中、彼が笑っていた。



羽をもがれた少女は地に堕ちた


.


 

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