ロメオ

□バイト先に
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「渚、短期のバイト興味ない?」

「短期のバイト?」

「来週イベントあるじゃん?うちのカフェ、今人手足りなくてさ。
その1週間忙しくなるからバイト探してるんだ。無理かな?」

「ん〜部活午前までだしそれからなら大丈夫だよ。でも1週間とかじゃあんまり役に立てないんじゃない?」

「大丈夫大丈夫!料理運んでもらう方だから覚えることは注文したお客さんのテーブルだけだし!」

「ならおっけー!また詳しいこと後で教えてよ」

「了解!助かるよ、ありがとう」


短期のバイトが決まった

小遣い稼ぎに丁度いいし
カフェって何だかオシャレだ


「お前働いたりできんの?」


このバカにしている言葉は
いつもの如く隣の席の男

「染谷さ〜私のことなんだと思ってんの…?」

「ただのバカな猿」


「さ…猿!?あんた本っ当に最低だね!
私だって働けるし!気になるならお店来てもいいんだよ?」

「お前なんかどーでもいいし」

なんでいつも喧嘩を売ってくるのか?
あんまり自分から話しかけるタイプだと思わなかったけどそんなことはなかった


「何よ。ほんとは構って欲しいくせに」

「は?自惚れんな」


「……」

カチンときた。

もう無視してやる
誰がこいつと話すもんか

「?」

怪訝そうにこちらの様子を伺いながらも何か察したのかこれ以上は染谷も何も言ってこなかった


−−−『カランカラン』

「いらっしゃいませー!
何名様でっ…え…?」

目の前に現れた2人の人物

休日に、しかもプライベートでは絶対に関わらないであろう組み合わせ


「染谷に、柴崎?…なんで2人?」

一応帽子とかで変装?している

そんなに大きな声で騒がなかったためか
周りの人たちには気づかれていない


「これから撮影」

「でも…なんでここに…
来ないって…」


「いいからさっさと席案内しろよ。
仕事サボんな」


カチーン。


(結局何しに来たわけ!?
ここでも文句言いに来たのかこいつ!)

腹が立ったので無駄話も切り上げさっさと席につかせた

「渚、部活終わりだししんどかったら休憩しろよ?なんか様子変だぞ」

「あ、ごめん大丈夫大丈夫!」

そうだ、イライラしてたらお店に迷惑かけちゃう

平常心、平常心。


「ほんとか?熱でもあるんじゃね」

「っ!」

額に手を添えられ
反射的に目を瞑った

「ん、熱はないか。
まあ無理すんなよ」

優しい言葉に少し気持ちが落ち着く

「ありがと!」


「あ、時村!このお水さっきのお客さんのところに持って行ってもらえる?」

さっきのお客さんて……

染谷達じゃん。最悪

「は、はーい!」

渋々、水2つを運ぶ
目的のテーブルに着いた

「どーぞ!」

勢いよく水を置くと染谷の視線
すぐに目を逸らせれ一言

「仕事中にいちゃいちゃしてんじゃねえっつーの」

「は、はあ??何言って…」


もしかしてさっきのやり取りのこと?

柴崎を見ると何やら呆れ顔


「あれは熱ないか心配してくれてただけ!
あんたと違って優しいからね!」

「は?」

染谷に睨まれた
少したじろいでしまう


『カラン』

「あ、いらっしゃいませー!」

今来たお客さんの元へと逃げるように向かった


「渚ちゃーん、どうも」

入ってきたのはバイト中よく来てくれていた大学生くらいのお客さん

言わば常連さんってやつ。

毎日接客しているうちに仲良くなった

「こんにちは!
お席案内しますね!」

席って言っても染谷達の近くしか空いていない


「お前、ほんと素直じゃねーな」
「何が?」
「ただの嫉妬じゃん」
「そんなんじゃないし」

2人の会話が途切れる


「こちらどうぞ〜」

「ありがとねー!
渚ちゃん、今日でバイト終わりなんだっけ?」

「そうなんですよね〜
1週間だけだったんで」

「寂しくなるなー折角仲良くなれたのに。バイト何時におわるの?」

「19時半くらい、ですね」

「そうなんだ!じゃあ俺が家まで送って「すいません、注文いいですか?」


会話を遮る怒気の混じったような声。
染谷のものだった

「あ…どうぞ」

「これとこれ」

名前じゃなく、メニューを指差す。
染谷らしい注文の仕方だ

それがおかしくてつい笑みがこぼれる


「クス…少々お待ちくださいね」


「…///」

染谷はパッと顔を伏せて頬杖をついた
その表情は帽子と眼鏡で見えなかった


「−−−お前…見てるこっちが恥ずいんだけど」

顔を赤く染める染谷に
芝崎は呆れた目を向けた

「見んな」

いい所で会話を邪魔された客はバツが悪そうに染谷を見る

が、一方の染谷はツンと視線を逸らしていた


「お待たせしました」


先程注文された料理を運ぶと染谷達のテーブルに並べた

持ち場へ戻ろうと振り返ると
また話しかけられる


「渚ちゃん。暇になったらまた来てね?」

「?…はーい!」

「……」

またも染谷の視線が男に注がれる

「(しつこいな、こいつ)」


おもむろに染谷が帽子と眼鏡を取り出した

「おわっ、バカ!お前…」

柴崎の叫びも空しく消える


「(何してんだろ?染谷)」

すると辺りから聞こえる声

「ちょっと待って、あれ勇次郎じゃない?」
「え、うそー!?」

瞬く間に歓声が広がった


「きゃー!勇次郎!!何でここに!!」
「てことは一緒にいるの、愛蔵!?」

「(げっ、みんな寄ってきた!)」

「これから撮影なんだ。
ちょっと時間潰しにね」

はい出た!
仕事の顔!

なんでわざわざバレるようなこと…

「カランカラン
カランカラン」

「勇次郎と愛蔵がいるってほんとー?!」
「SNSで見たよ!」

一斉に人が入ってきた

この中の誰かが書き込んだのだろう

「(SNSこわっ!!)」

染谷と視線が合った

にっこりと微笑まれる


「!?」

(何その勝ち誇った感じ!!笑顔とか今いらないんだけど!)

予想通り仕事が忙しくなる

この1週間の中で間違いなく一番売り上げが伸びたはずだ

恐るべし人気アイドル効果

「あ、あの…お会計」

ことごとく染谷に邪魔された常連客は生気のない顔でレジへ来た

「ご馳走様でした…」

トボトボと店を出て行った

(騒がしくなって嫌だったんだろうな〜。
あいつ何がしたいのかさっぱり分かんない!)

ようやく染谷達も立ち上がり会計を済ませる

「じゃあね、ご馳走様」

爽やかスマイルでファンを引き連れて店を後にした

「染谷達だったのかよ。やっぱすげーな、アイドル」

「ベタベタされちゃってさ!
邪魔しに来ただけじゃん!」


何故イライラしているのか
自分でもよく分からなかった


そしてバイトも終える

「渚ちゃん1週間ありがとう!
おかげで助かったよ〜」

「いえ、こちらこそお世話になりました!」

「後は私達がするから渚ちゃんは先に上がっててね!」

「はーい!」

「ごめんな。家まで送ってやれなくて。気を付けて帰れよ」

「ありがと!また明日学校でね!」


お店を出ると外は薄暗くなっていた


「お疲れ様」
「へ?」

不意に聞こえたその言葉

「そ、染谷?なんでいるの?」
「仕事終わったし、終わるの19時半とか言ってたから」

私がお客さんに言ってたの覚えてたんだ

「待っててくれたの?
え、でもなんで?」

「なんでって、暗いし…
変なやついるかもしれないし」
「送ってくれるの?」

目を逸らし頷く姿を見て
何だか胸が熱くなった



「お前さ、もう接客やめとけよ」

「やだ!接客楽しいから好きだもん」

「見てて危なっかしい」

「ひ、ひど!」

「……(あんな笑顔向けてたら変な虫つくし)」

中々素直になるのは難しい


「ていうかお店来ないって言ってたのに」


「気にして欲しそうだったから行ってやった」


憎たらしい顔でそう言う

「な!そっちこそ自惚れんな!!」


お互い素直になつのは
いつになるのか。


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