姫が武士

□女の生きる道
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「奥方様がいらしました」

さよは慌てて平伏する

「君菊はいますか?」

「はい」

私も座り直した。

「明日から、剣術は禁止です」

「え?」

「女が剣術など…いくら護身のためとはいえ、いい加減にしなさい。嫁入り前なのですから」

道理である。

しかし、剣術がなくなるとなると、自分には何が残るというのだ

子を生むこと?
それだけのために私は生きているの?

「母様、それでは私は何をすればよいのでしょう」

「神楽笛が得手でしょう」

「もう飽きました」

「勝手にしなさい。どうせすぐいなくなるのだから。」

「ええ、居なくなりますとも」


母の虐めは酷いものだった。もともと、あの母と私の血は繋がっていない

父は私が生まれた頃には亡くなっていたため全く知らない。

そう。私は孤独だった。
母は私を外に出してこの家を乗っとる気だ。

許せない…

兄様…お会いしたいです…

私はこのままこの家を脱け出し、貴方のいる京に行きたい…


私はその夜、こっそり部屋を脱け出し、父の形見にしていた刀を二本さし、平袴に着替え、懐に金子をたくさん入れた。

「そこで何をしておる?」

「せ、先生!」

剣術の指南をしてくださっている先生がいた。

「あなたこそ、何故ここに?」

「刀の手入れじゃ。そのなり、奇妙じゃぞ」

よく考えると、髪を女髪に結っていたままであった。私は総髪に結い直した。

「剣術、もう教えられんのじゃのぅ…」

「ええ。残念です」

「お主はかなり筋がいい。」

「本当ですか?」

私はいつも先生と二人っきりで稽古をしていた。試合はいつも先生と…。負けしか味わったことがない

「して、そんな格好でどこにいく気じゃ?」

「…………」

「主は…」

「見逃してください」

私は頭を下げた
先生は困った顔をして

「何故逃げたいのか」

「外の世界がみとうございます!」

「外はここよりずっと厳しいぞ」

「覚悟の上!私は兄のお役に立ちたい。人生を赴くままに生きたい!」

「お主らしいな…」

「私は…私はただ……」

自然と涙が出てきた。
女君菊として生きることの苦しさ、もどかしさ、自分の命の軽さを知ってしまった……

「迷っておるのか」

「否…。先生がだめというなら、私はここで自分の腹を斬る決心です」

短剣を取りだし、腹にあてる。

「嫁入り前の女が自身を傷物にするというのか…」

「私の生きる道は、もう女の道では有りませぬ故…」

「お主は無知すぎる…」

「それも承知の上。自分で学びに行こうと思いました」

「己の志に間違いはないか」

「はい」

「悔いはないか」

「有りませぬ」

「それでは、君菊は殺せ。もうお主は君菊ではない。」

私は先生を見上げた。途端に、拳が落ちてくる

「い、痛い!」

「曲者じゃ!!邸に曲者じゃ!」

『なんだとー!』遠くから見張り代がくる。

「せ、先生?」

「行け!!此れで君菊は何者かに拐われたことになる!」

「先生、達者で!」

「お主も……」




『生きろ』




こうして私は京に向かった。
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