APH
□彼の場合
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アントーニョの愛情表現は解り易い。
多少強引ではあるが、それを天然でやってのけるのだから不思議と嫌味はない。
ただ少し文句というか願望というか提案というか…困ったこともある。
なんとなくそれらしい雰囲気になり、「あ、キスされる」と思った時には既に口は塞がれていて、彼らしい情熱的なそれに息をするのもやっとになる。
ぎゅっとつむっている目を開いてみれば、こちらの反応を楽しむかのように目に熱を宿した彼が居た。
こんな状況でまさか目が合うなんて予想外で、心臓も思考もたまらなくなり再び目を閉じた。
足りない酸素を多く取り込もうと自然と荒い呼吸になる。
彼はといえば涼しい顔だ。満足気にニコニコと微笑んでいた。
悔しい・・・得体のしれない敗北感だ。
せめてもの抵抗に、文句というか願望というか提案というか…なソレを投げかける。
「ね。どうして目、閉じないの?」
「んー?なんでってそんなん…」
「恥ずかしいでしょ!まさかいつも開けてるとか?」
「開けてるけど」
クラリとめまいがした。
そのまさかだとは…
「だってあんなええ顔、見な損やろ」
「・・・」
完全に敗北…もはや悔しくすらない、ある意味において清々しくもある敗北感に、きっとこの先勝てることはないと確信した。