APH

□彼の場合
1ページ/1ページ


 アントーニョの愛情表現は解り易い。
多少強引ではあるが、それを天然でやってのけるのだから不思議と嫌味はない。

ただ少し文句というか願望というか提案というか…困ったこともある。




 なんとなくそれらしい雰囲気になり、「あ、キスされる」と思った時には既に口は塞がれていて、彼らしい情熱的なそれに息をするのもやっとになる。
ぎゅっとつむっている目を開いてみれば、こちらの反応を楽しむかのように目に熱を宿した彼が居た。
こんな状況でまさか目が合うなんて予想外で、心臓も思考もたまらなくなり再び目を閉じた。

足りない酸素を多く取り込もうと自然と荒い呼吸になる。
彼はといえば涼しい顔だ。満足気にニコニコと微笑んでいた。
悔しい・・・得体のしれない敗北感だ。

せめてもの抵抗に、文句というか願望というか提案というか…なソレを投げかける。

「ね。どうして目、閉じないの?」

「んー?なんでってそんなん…」

「恥ずかしいでしょ!まさかいつも開けてるとか?」

「開けてるけど」

クラリとめまいがした。
そのまさかだとは…

「だってあんなええ顔、見な損やろ」

「・・・」

完全に敗北…もはや悔しくすらない、ある意味において清々しくもある敗北感に、きっとこの先勝てることはないと確信した。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ