APH
□蒼と紅
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目が覚めると見知らぬ天井だった。
ぼーっとした頭で天井を睨むと、少し離れた位置から人の気配がする。
シュルシュルと衣擦れの音も一緒だったため、あぁ…と少し思い出し音の方へと目をやる。
見えたのは後姿だった。首筋や背中にまで昨夜自分が付けたのであろう赤い痕がいくつもある。
白い肌のせいかそれは痛々しいくらいだった。
酔った勢いという名の一夜限りのなんとやら…
全く覚えてはいないが、初めての事ではない。酒を飲んで、その気になれば物色し、適当に誘ってお互いの欲望に任せるまでだ。
それにしても珍しいと自分で不思議に思う。
こんなに痕を残すほど、執着したのはおそらく初めてだった。
一体どれほどのイイ女だったのか、記憶を辿るがいまいちまだハッキリしない。
夜明け前の気温と、横にあったであろう温もりを失ったシーツがブルリと身体を震わせた。
「起こした?」
震えた様を見て、シャツだけを着た女が振り向く。
あぁそうだ、思い出した。
俺とは対照的な深い蒼の、理知的な瞳が印象的で一目見て気に入り、しぶる彼女を苦戦しつつも口説き落とした。
自慢ではないが、普段なら女相手にここまで必死にはならない。ならずとも言い寄ってこられる事が多いし、一声かければ済む事が多かった。
だから手に入れた時は多少無茶を強い、執着したような行為に及んだ。
あの首や背中の痕が証拠だった。あくまでドライな関係でありたいがために、痕は残さないことが多い。
起こした?と覗きこむ彼女はやはり理知的で、全てを受け入れてくれるような蒼の瞳をしている。
「ギル?」
名を呼ばれ、驚き目を見開く。
何度も言うようだが、あくまでドライでありたい。そのためわざわざ名乗ったりしないし、相手の名にも興味はなかった。
なのに彼女は名前を知っている。
どれほど自分が必死だったのかが伺えて、苦笑が漏れる。
「お前、名前は?」
ここまでくればドライもへったくれもない。
俺を初めて必死にさせた彼女に興味がある。
寝起きのかすれた声で尋ねると、彼女はその瞳を細めてにこやかにほほ笑み、教えないとダメ?と言った。
…どこまでも面白い。
内心ケセセと笑い飛ばし、彼女を引き寄せ暖をとるかのように抱きしめる。
夜明けまではまだ時間がある。
それまでに聞き出してやると、赤い痕を俺の目の色になるまで、キツく吸い上げた。