APH

□Bewusstsein
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 男女の友情は成立するか。
個人的にはノーだ。仮に友情を保っていたとしてもどちらかが相手に好意を抱いた時点でそれは容易く崩れるだろう。
そんな脆いものを友情と呼べるのか。甚だ疑問だ。

その疑問を抱くようになったのは最近の話で、それまで男友達とは違うが限りなくそれに近い存在の彼女と一緒に居るのは心地良く、例え隙間があったとしても恋愛感情が入り込む余地など無かったし、何よりそんな発想すら無かった。

「ギル、私好きな人ができた」と、そう言った彼女は見たこともない表情をしていて、今まで男友達と変わりないくらい割とぞんざいな扱いをしてきた目の前で顔を赤くしている彼女が、自分とは違う「女」なのだと今更だが改めて認識した。
認識すると同時におもしろくないと感じる自分。俺の前ではこんな顔を見せたことはない。
様々な感情で動揺し、友情に対する疑問で心は少しも落ち着いてなど居なかったが「まぁがんばれば」とそれだけ伝えた。

その日以来、疑問に対する答えを模索する毎日を送っている。
一度疑問をもってしまえば、今までどうして友情として成立していたのかすら疑問になる。
疑問が疑問を産んで、面倒臭くて考えるのをやめる。このローテーションの繰り返しだ。

本日5度目のローテーションに入りかけた頃、ドアのノック音がして時計を見る。
日付が変わりそうな時間を指すそれを見て、こんな時間に尋ねてくる無礼な人物を何人か予想してドアを開けると、予想していなかった彼女が立っていた。

「なに、どうした」

こんな時間にと言いかけて気付く。目が赤い。

「泣いてんのか?」

小さく頷く彼女に、とりあえず入れと部屋に招く。

また見たことが無い表情になんとなく話は聞かなくとも解った。
自分から話すのを待つかと、座らせた向かいの椅子に腰かける。

「ごめんね、急に」

「別に」

切り出しにくいのか、口ごもる様にして座る彼女に「で、どうした?」と投げかければ少し身を強張らせた。

「振られちゃって」

「やっぱそうか」

「やっぱりってどういう意味?」

また目を赤くし始めた彼女は、失礼なと言いたげに冗談ぽく怒る。

「そんだけ目ぇ腫らしてよく言う」

「うるさい」

何があったのかは解らない。友人としての彼女しか知らないが、振ったやつは大馬鹿野郎だ。

「まぁさっさと忘れるんだな」

「ギルはデリカシーが無いよね」

「じゃあ何で俺のところなんだよ」

「わかんない」

「デリカシー無いけど、ギルの顔が見たくなった」と続ける彼女も馬鹿だ。
俺にしときゃ泣くことも無かったのにと思う自分に疑問が晴れる気がした。

「ギルを好きになってれば良かったな」

それは暗に「好きになることは無い」と言われたようで、少しばかり腹が立つ。

「なんなら試してみるか?」

「え?」

その瞬間に唇を重ねてみる。間にテーブルがあるせいで遠い。彼女の後頭部に手を回して引き寄せ、自分も距離を詰めるようにしてほんの数秒重ねた。

「な、なに…?なに今の」

目を赤くしたり顔を赤くしたりと器用なやつだと思うが、俺に対してのその表情に少し焦燥感が満たされる。

「お前が俺のこと好きにならねーとか言うからだろ」

「そんな事言ってないし。というか友達でしょ?」

「んなもんこっちが好意抱いた時点から破綻してんだよ」

「好意って…」

そう言うとみるみる顔を赤くする。
その反応を見て確信する。何も問題ないんじゃないか。友情が恋愛感情に変わるだけで俺たちの関係は何も変わらない。
それを伝えようとしたが上手く言えそうにない。

「で、どうする」

「なにが…?」

「わかんねーならもっかい試すか?」

「い、いい!結構です」

「遠慮すんな」

言えないなら示すまでだ。
そして俺を意識しろ。

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