WORKING!!
□そのためのスペース
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ワグナリアの女子制服はリボンの丁度下に位置する場所が少し開くようにデザインされていて、そこから素肌が見える。
何故このような仕様なのかは解らないし、見えるといってもほんの少しなので気にもしていなかったが、こんなにもこのスペースを恨む事になるとは思いもしていなかった。
更衣室で着替え終えると鏡の前でエプロンのリボンが歪んでいないか確認し、軽く髪を整えてホールに出るだけだったがひと手間増えた。
ここ1ヶ月ずっと同じ事をしている気がする。
急を要したのでコンビニで済ませた可愛くともなんともない、ただコストパフォーマンスだけは良かったコンシーラーをポーチから取り出し、その小さなスペースに浮かぶうっすらと紫色した部分に塗り付け指で軽く叩く。
ナチュラルになじんだところで納得し、ホールへと出た。
一度この作業を忘れた際、種島さんに「赤くなってるよ」と指摘され、咄嗟に「虫にさ刺されちゃって!」と答えた。
それを聞いていた相馬さんが「虫ねぇ…」とつぶやいた事が恐ろしかったのを覚えている。
痛々しい青紫からようやく少し薄らいだところだったというのに、まるでお仕置きやマーキングとでも言いたげにその日の内に同じ場所を虫に刺された"
二度も刺されたそこはひどく鬱血し、1ヶ月が経ってやっと薄くなったが念には念をと面倒なひと手間をかけている。
「ぶつけたの?青くなってるよ」
種島さんが心配したように声をかけてくれるが心臓が跳ねる。
思わず例のスペースにチラリと目をやるが、「ほらここ」と続けて指差したのは膝の少し上辺りだった。
「あぁ、それは多分どこかにぶつけたんだと思う」
「覚えてないの?」
「うん。よくぶつけて青あざ作るんだよね」
「意外と慌てん坊さんなんだね」
胸の虫刺されの事ではないとホッとして、談笑していると「で、痕が残りやすいんだよね」と聞き覚えのある声がする。
「あ、相馬さん!」と種島さんの声がしてやっぱりなと思いながら振り返ると胡散臭いくらい爽やかな笑顔の彼がいた。
「どうして相馬さんがそんな事知ってるの?」
「だってそれは実証済みだか…」
「あー!紙ナプキンの補充しようと思ってたんだったー!」
種島さんの純粋な疑問に、ある意味純粋に答えようとする相馬さんをさえぎるようにして、少々わざとらしく主張する。
「私もやろうと思ってたんだ、お揃いだね」と、いちいち可愛くそう言うと「私がやっておくね」と小さな身体で小走りするかのように行ってしまった。