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□二物-代価=プラマイ0
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 本日の目玉!!と仰々しいフォントが目に飛び込む。
その隣を見ると¥9 8 の文字。さらにその隣を見ると、昨日使い切ってしまい買わないとと思っていた赤いふたが特徴的なマヨネーズがドドンと載っている。

「これは…」

400gでこの値段は私の人生の中でおそらく最安値だ。

朝9時オープン 先着100名様限定
※お一人様1本限り

なんというタイミングだとテンションも高まり、手にしていた赤ペンで大きくまるを付けて時計を見るとオープンの10分前。
こうしてはいられないと、素早く身支度をしてお財布とチラシとを巾着に入れてスーパーへと向かう。

小走りでたどり着くと、結構な人数が並んでいた。
まさか皆が皆マヨ狙いだとは思わないが、無事に買えるかと少しの不安が生まれる。
チラシに目を通せば他にも目玉商品はある。きっと大丈夫だと言い聞かせて開店を待った。


9時になると同時に開店し、なだれ込むようにして店内へと向かう人たちにぎゅうぎゅうに押され、駆け出す人たちに遅れをとり、自らの体力の無さと持って生まれた運動能力の低さを呪う。
ほんの数秒のことだったが、随分と時間が経ったかのようにボロボロになった気分で「調味料(しょうゆ・みそ)」の棚へと向かった。
果たしてこの並びにあるかは解らないが、隣を見れば「調味料(香辛料)」とあったので、おそらくこちらだろう。

抜け落ちたかのように空の一角が存在する不自然な棚を見つけ、やはりここで合っていたようだと納得する。
できれば買って納得したかったなと落胆して、ふと隣を見ればカゴいっぱいにマヨを入れている人物が居た。

「うわ…」

その光景に思わず声を上げると、カゴの主がこちらを見た。
黒髪がさらりと揺れ、髪と同じ色をした瞳孔はやや開き気味だ。美形と呼ぶにふさわしいその男性は、その瞳孔のせいで少し怖く見えるのも事実。
もったいない、と素直に思った。

「あ、すみませんなんでもないです」

だが口から出た言葉は人間の防衛本能とは素晴らしいなと思える一応の謝罪の言葉で、この少し惜しい美形からそそくさと離れた。
離れたが、すぐに考える。
彼は知っているのだろうか?見たところ一人のようだが…
迷ったが、また彼のそばへと近寄り声をかける。振り返ったその目はやはり瞳孔が開き気味だ。
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