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□La Vergine
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レガーロ晴れと呼ばれる快晴の空の下、そんな快晴がもたらす爽やかさが似つかわしくないデビトとバールに来ていた。
白昼堂々と飲酒……テラス席から差し込む太陽に罪悪感さえ生まれる状況。
「どうしたァ?」
「いえ、太陽が眩しいなぁって……」
注がれたワインが減っていないのを見て、彼はその隻眼を少し吊り上げた。
以前「怖いから睨まないで」と言えば「目つきの悪さなンざ生まれつきだから仕方ねェだろ」と言われたが、やはり怖いものだ。
「あァ?何の関係があるってンだ」
「いえ、特には」
罪悪感なんて微塵も感じていないらしい彼には私のグラスがいつまでも空にならない理由が解る日はないだろうと思っていると、「オイ」と乱暴に呼ばれた。
「その話し方やめろ。ルカと居るみてェだろ」
「ルカ?」
そういえば、よく一緒にいる二人の内の一人がやけに丁寧な話し方だったのを思い出した。顔は残念ながらおぼろ気にしか記憶にない。
「あぁ、あの不幸そうでちょっと地味な」
ついポロっと口からこぼれたのを聞いた彼はハハッ!と声を上げて笑った。楽しそうな声とは反対に、顔は意地悪な笑みを浮かべている。
「確かにアイツは幸薄で地味だな。覚えてねェのも頷ける」
ひとしきり笑ったあと、納得したように深く頷いた彼は不意に距離を縮めた。
「ま、この俺しか目に入らねェって事だろ?」
急な事で無防備だった耳元で囁くようにして言う彼は先ほどよりも三倍は意地悪な笑顔だ。
「う、自惚れ……!」
「そうやってすぐ赤くなンのがいつまで経っても初々しいねェ」
「自惚れないで」と言おうとしたのを遮ってまで続けられて、自分がおそらく真っ赤なのだろうと自覚するほどの熱が顔を占めた。
彼目当てでカジノへ通う人も少なくはない。実際、私の周りでも彼は人気だ。
そんな人が私とこうした時間を過ごしている事に不安が無いほうがおかしい。姿を見つければ目で追ってしまうし、他の人が目に入らないのも仕方ない事、と言い訳を心の中で唱えてた。
「やっぱり自惚れじゃないかも」
自らの一連の思考、行動に決して彼は自惚れではないなと思い訂正する。少なからず私の心は掴まれているのだ。
「だろーなァ」
一言ニヤリと肯定する姿は少し憎らしい。
「……自惚れではないけど、自信家ではある」
「実際自信あるしよォ、そりゃ仕方ねーって」
「良い男の条件ってェのに「自信」も必要だろォ?」と自信たっぷりに言える彼は十分に自信で満ちているのだろう羨ましい限りだ。
「……のくせに」
「何かイッたか?」
「聞こえねー」と言いた気に手を耳にあてて距離を再度縮めた彼と目が合う。
また熱が上がるのを感じて慌てて口を開いた。
「デビトなんか「おとめ座」のくせに」
「テメっ!」
12星座中、間違いなく一番フェミニンな響きのソレは大抵の男性には似合わない。
彼の場合それ以上に雰囲気、イメージ、自信に繋がるもの全てにそぐわない。しかし彼がおとめ座である事は変わらぬ事実で、それは一生変わる事はない。
本人が望まずしての事とはいえ、私が彼の鉄壁とも言える自信に悔し紛れに反撃するにはこれしか無かった。
思いのほか動揺した彼は、「飲まねェならよこせ」と怒った素振りで私の手からグラスを奪い取ると残りのワインを飲み干した。
「イイ根性してンじゃねェか」
「俺に刃向うなんざ、覚悟出来てンだろーなァ?」と挑発的な隻眼と、官能的とも見える口の端に残ったワインをペロリと舐め上げる仕草はやはり快晴の空の下には似合わない。