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□フェミニン
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 最初の印象は綺麗な顔をした人だなというくらいだった。
思った事をすぐ口にしてしまう性質の私は「夏目くんは綺麗な顔をしているね」と本人に言うと「……ありがとう」と少し複雑な顔をして返された。
これが初めて交わした会話だったと記憶する。

彼はどこかミステリアスだ。「天然」とは少し違うし、「暗い」というわけでもない。
大人しいに変わりないが、それもしっくりとはこない。なので彼を形容するなら「ミステリアス」だと思う。
クラスの男子とは違うどこか達観したように憂いすら帯びている瞳にしろ、その瞳がたまにどこか遠くを見つめているのにもしろ、その全てが線が細く整った顔立ちでどこか女性的な雰囲気を持つミステリアスな彼に絶妙に合っている。

「やっぱり夏目くんは綺麗だね」

その瞳をして窓から外をぼんやり眺めている夏目くんを眺めていた私はそう声をかけた。

「あの……さ、それ止めてもらっていいかな」

彼は少し眉を寄せ、遠慮がちに言う。

「どうして?」

「いや、だって男に綺麗って褒め言葉でもないだろ?」

「そうかな」

十分褒め言葉だと思うが、綺麗な顔をした人にはその人にしか解らないコンプレックスの様なものがあるのかもしれない。
贅沢な事だ……と思い、ついつい口から漏れそうになるがなんとか堪えた。

「でも夏目くんってミステリアスだし、その雰囲気が夏目くんには合ってるっていうか、その……変な意味で言ってたんじゃないんだよ?気にしてたならごめんね」

「おれ別にミステリアスでも無いと思うけど」

「んー、なんていうのかなぁ。時々……あっ!今もそうだったけど、何だかしんみりと遠くを見てたじゃない?そういうのがミステリアスっていうか、ね」

そう告げると彼は「えっ……」と小さく声を上げたあと、少し顔を赤くした。

「いや……夕飯何かなぁって考えてただけだよ」

「えっ」

今度は私が声を上げる。

「夕飯の事考えてたの?」

「ああ」

あんなに美しく夕飯の事考える人を初めて見た。全く美形とは何をしても様になるものだ。

「そ、そうなんだ」

「なんかごめん」と言えば、「いや、おれの方こそなんか……」と言いにくそうにした彼のお腹がグギュルと音を立てた。

顔に似合わずその音はワイルドで、少しびっくりして顔を見れば再び「ごめん……」と何故か謝られてしまった。
なんだか可笑しくなってプッと笑えば「笑うなよ」と言いながら夏目くんも柔らかく微笑んだ。
その顔はやはり女性的ではあるが、それにしては私の心臓がうるさい。
クラスの男子とはどこか違うと思っていた彼が、急に何ら変わりない「男の子」に感じてドキリとする。
そして「あぁやっぱり綺麗だな」と心底思ったが、贅沢なコンプレックスを持つ目の前の美しい男の子には言わないでおくとする。

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