WORKING!!2
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冬休み、クリスマス、年末年始、この時期は忙しい。
新しく出たシフト表をじっと見ては手帳へと書き写す。やっぱり、思った通り休みはあまり無い。
別に休みたいわけでは無い。その分バイト代には期待できるし結果としては問題ないのだが、なんだかちょっぴり虚しい気持ちだ。
「年頃の女の子がイベントたんまりのこの時期にみっちりバイトで良いの?」
突然背後から聞こえた声にビクッと肩を震わせ振り返ると「あ、ごめんねー」と言いながらも反省なんてしていないであろう笑顔をした相馬さんが居た。
「そういう相馬さんこそみっちりじゃないですか」
乗せられてるなぁとは自覚しながらも、少しばかり腹が立ったので同じように言い返してやると「まぁ暇だしね。同じ暇なら稼いだ方が良いでしょ?」と合理的とも世間へのひがみともとれる意見を述べる。
「なんだ。結局暇なの一緒なんじゃないですか」
「そんな相馬さんに私をとやかく言う資格はないですよ」と言おうとした時、相馬さんが「え…」と声を漏らした。
「え、なにこれ。なにココ」
そう言ってある一点を指差したので見ると、年末年始、私の唯一の休みといってもいい一日だった。
「なにこれって……その日お休みなだけですけど?」
「何か予定があるとか?」
「はい?」
どうも先ほどからよく解らない。
首をかしげると相馬さんは「だって……だって……」とつぶやくと
「だってこの日、イブだよ!?」
と何故か少し怒られているような気分になるくらい口調を強めた。
「な、なんで怒ってるんですか」
あまりの剣幕に驚いて尋ねると「怒ってない、怒ってないよ」とニコリと微笑むが、それはぎこちない。
「別に希望出したわけじゃないですよ?たまたま休みなだけで」
「イブだとかそういうの、今言われて気付いたんで」と付け加えると相馬さんはやっと指を24日から離した。その部分が少しよれよれになっている。
「じゃあどこぞの男とデートだの、やれ合コンだのっていう浮ついた予定は無いと?」
「えぇ、まぁ。家でゆっくり寝るくらいでしょうか」
「浮ついた予定」って……とまるで頑固なおじいさんみたいな言い回しに少しプッと笑いそうになる。
「わー、色気のないイブの過ごし方だね」
「なんなんですかさっきから」
怒られたりけなされたり一体なんなのだとギロリと睨む。
「いやいや、安心しただけだよ」
「安心?」
「そうそう」
うんうんと頷いた相馬さんは「じゃあさ」と話を切り出す。
「イブは俺と過ごす?」
「過ごすって相馬さんガッツリシフト入ってますよ」
今度は私が相馬さんの24日を指差す。
「あぁ、うん。だから、バイト終わってから」
「皆でパーティーか何か?」
「いや、二人でご飯」
あまりにサラっと言うので一瞬「なるほどねー」と聞き流してしまいそうになった。
「え、それってまるでデートみたいじゃないですか」
「うん、だってデートのお誘いだから」
そこにある窓まで駆け寄り開けたのち思い切り「えーーーーー!!!」と叫びたい気持ちをやっとの思いで堪えた。
人が混乱しているのを良いことに、相馬さんは勝手に人の手帳の24日に「相馬さんとデート」と書き込んだ。文末にはお粗末なハートを添えて。