WORKING!!2

□なにがどうして
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 神様は不公平だ。美しいものには二物も三物も与えるではないか。

目の前で、窮屈そうながらもそのたわわな実りっぷりが解る胸が揺れている。
クリスマス前の街に見られる一種の風物詩と言ってもいい、コンビニの店員さんが寒空の下で客引きよろしくサンタと表現するにはあまりに肌を露出した姿でケーキを販売している光景が目の前に広がる。
この店の店長はよく解っている。スタイルの良い可愛い女の子二人がたわわに販売すれば注目度は抜群だ。その結果、ケーキは良く売れている。鼻の下が伸びたギャラリーも多いが。


後頭部しか見えないので彼の伸びっぷりは拝めないが、だらしないその顔を想像しただけでなんともムカムカとしたのでギュウと思いきり頬をつねった。

「痛っ!」

瞬間彼は頬をさすり「何?」と不思議そうな顔をする。

「別に。つねりやすそうなほっぺしてたから」

「何その理不尽極まりない理由」

「えー」と抗議する彼を置いて歩き出すと「あ、ちょっと…」と開いた距離を詰めるようにして後を追ってきた。

「あれ?なんか怒ってる?」

「そう思うって事は何か心当たりでもあるの?」

「わー、威圧的だなぁ」

困った様に、つねられて片側だけ不自然に赤くなった頬をさする。

「見てないとは言わないけどさ、特に深い意味も無いよ?」

「……それフォローなの?」

「フォローっていうか、男なんてそんなもんだよってお話」

その主張にイライラとする。

「ふーん」

「そりゃ目の前でタダであんな恰好して揺られてたら……ねぇ?」

「いや、全く同意できないから」

解らないわけではない。彼の言う通り男性はそういうものなのだろう。「たなぼたラッキー☆」くらいの気持ちなのだろう、解る。
が、しかしだ。それを彼女の前で本能のままに有難く拝見するものなのだろうか。
彼との多少の論点のズレに一層イライラし、「佐藤くんなら見ないと思うけど」と言うと相馬くんの周りの空気が少し下がるのを感じた。

「なんで佐藤くんが出てくるの」

「例えばの話」

「絶対見るね。佐藤くんだって絶対見るよ、むしろああいうムッツリの方が下心満載なんだよ?」

「やめてよ佐藤くんを汚さないでよ」

何故例えばの話でここには居ない同僚を兼ね合いに出し、ここまで言い合わねばならないのか。

「……随分と佐藤くんの肩を持つね」

「別にそういうつもりじゃ」

暫く沈黙が続き居心地の悪さを感じると同時に相馬くんが「解った」と一言放ったのが聞こえた。

「えっ」

そのまま手首を痛いくらいに掴まれズンズンと向かった先は無いものなど無いくらい多くの商品を取り揃えているバラエティショップだった。

意図が掴めず戸惑う私の腕を未だ掴み、他の商品など目もくれずに辿りついたのは気合いの入ったポップが目につくコスプレコーナーだった。

「あ、あった」

やや乱暴に商品を掴むとレジへと一直線の相馬くんに嫌な予感がして問いかける。

「相馬くん?あの、それ」

「そう。さっきの店員さん達が着てたやつと一緒」

「……何に使うの」

「何って。着るんだよ、当然でしょ?」

「相馬くんが?」

「なわけないじゃない」

やっと目を合わせた彼に先ほどまでの冷たさは無く、むしろ上機嫌にも見える。その微笑みが今は怖い。

「ちょっと待って。私絶対そんなの着ないか……」

必死に抗議するも、あっという間にお会計を済ませた相馬くんは「はい」とキラキラした笑顔でそれを私に向けた。

「い、いらない」

「何、着せて欲しいの?」

「いやいや……はは」

もう笑って誤魔化すしか無く、力なく笑うと再び「はい」と良い笑顔で押し付けるように渡された。




「ねぇ……どうして着ないといけないの?」

何故こうなった!!
という経緯への疑問をお店を出てからそろっと尋ねる。

「こうすれば全部丸く収まるでしょ?」

「俺がどこぞの女の子を見た事に嫉妬するっていうなら、これ着てくれれば良いと思って」と続ける相馬くんに納得できずに無言を貫く。

「俺は彼女のサンタ姿を拝めて満足な上、他のサンタさんに目が行く事もない。ね?」

「ね?って言われても……それ結局相馬くんしか得して無いような?」

「それに、色々とスカスカになると思うけど……」さっき見たコンビニ店員の女の子級のクオリティを求められても困るのと、どうにかしてすり抜ける方法は無いかとごねてみる。

「まぁあれと比べらた貧相だろうね」

ニコリと、しかし淡々と言ってくれる。

「あ、でも底上げとかしなくて良いから。そういうの良いから」と、彼のどうでもいいこだわりというかパッド反対派の主張に「そうですか」としか言えない。

「それに、佐藤くんばかり良い様に言うし。ちょっと腹立ったよね。だからこれくらいは良い思いしてもいいと思うんだよね」

「つまりヤキモチ?」

「そう、お揃い」

終わってみれば何ともバカップルじみた話だ。お互い嫉妬して、出た結果がこれとは。
歩く度にガサガサと音を立てる買い物袋の音を聞き、機嫌良さそうに歩いている彼の横顔を見て腹を括ろうと覚悟をする。

「あとさー」

覚悟を決め、静かに闘志に似た何かを燃やしていると横からのん気な声がしてチラリと見ると、真剣な顔をした相馬くんが口を開いた。

「佐藤くんも絶っ対見るよ」

その話はもういい。

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