APH
□Aussprache・bung
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本田の遣いだとやってきたのは、本田同様に黒く艶のある髪にそれと同じ色をした大きな瞳をした少女だった。
いや、こう見えて案外年上かもしれない。
ここの人間はえらく幼いのが特徴と言っても良いほどだ。
本田も十分に線は細い方だが、性別が違うだけでこうも華奢なのかと驚いた。
彼女が家にやってきて数週間経つ。
遣いとしてやってきた彼女に渡す書類は出来上がっていたが、働きすぎという理由で休暇を兼ねるよう本田から指示されていたらしい。
見知らぬ土地での休暇だ、無理もないが最初は存分におどおどされ流石に少し傷付いたが、どうやら害は無いと判断してくれたのか今は自然な笑顔もみせてくれる。
「折角の休暇なんだ、なにも無理してこんな所で過ごさなくても良いんだぞ」
「無理なんてしてませんよ」
持参したらしい緑茶をこちらにも運んでくれた彼女はにっこりと微笑んだ。
いつも通り働いている方が楽なタイプなのかもしれないな、解らなくもない。
実際、彼女はよく働く。掃除と、おまけに飯の用意までしてくれて数週間で部屋は小綺麗になった。
勉強熱心なのか、こちらの文化を学んでいるようでもあり、色々と疑問を尋ねられる事もしばしば。
「あの、ルートビッヒさん」
本を片手に、まるで小動物かの様にてててとこちらに向かってくる。
また何か質問だろうか。本当に熱心だなと感心しながら、言いにくいのだろう未だに上手く発音できないその姿に目を細めた。
「すまないな、長い名前で」
「い、いえそんな…こちらこそ失礼致しました。何度練習しても言えなくて…」
思わず自分の名を練習している姿を想像して、胸の辺りが温かくなるような感覚がした。
「るーとぶいっひ…ぶい…ぶぃ…」
ごにょごにょと今も練習している彼女に一つ提案してみる。
「略してくれて構わない」
「ルート」と、その唇から呼んでくれれば、いつまでもこの胸の温もりが消えない気がした。
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「良いんですか?馴れ馴れしくはないでしょうか?」
「構わない」
「で、では早速…」
少し照れたように頬を薄く染めた彼女が名を紡ぐのを待つ。
「ビッヒさん」
…そっちか!