APH

□心音と体温
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「やっぱり美味しいわぁ。お酒もすすむし、目の前には可愛い子。最高や」

「酔ってる?」

「酔ってへんよ」

素面でもこんな調子なので、酔っているかの判断は難しい。
空のボトルは先ほどより倍近く増えているが、これはどうなんだろう?
照れくさいせいか、ワインのせいか解らない熱がほんのりと身体をふわふわとさせる。

「グラス空いてるで」

傾けられたワインを「もう飲めない」と伝え、空いているお皿を持ってキッチンへと向かった。
「そんなん後でええのに」という声が聞こえたので、「こびりついたら面倒でしょ」と返したら、小さく笑う声がした。所帯じみた考えだと思われただろうか…

シンクにはいくつか食器があり、それらをキュッキュと音がするまで洗い、最後の1つの泡を落として蛇口をひねると、両サイドからスッと腕が伸びてきたかと思えばぎゅうっと抱きしめられた。

「ど、どうしたの!?」

急な事に、ふわふわと心地良いリズムを刻んでいた心音が跳ね上がったように脈打つ。

「だって、なかなか帰ってけぇへんねんもん」

「今終わったの!」

どこからが自分の心臓の音か解らないくらい、腕に力をこめられた。
ワインで体温が上がった至近距離の彼からは男性の匂いがして、こんな状況なのに「あぁやっぱり男性なんだな」「可愛いは失礼だったかもしれないな」なんて考えていた。

「ええ嫁さんになるわ、きっと」

あまりにびっくりして、思わず“回れ右”をしてしまい、今度は正面からすっぽりと腕の中に収まってしまう。
他意は無いのだろうか?そのまま素直に受け取るべき言葉なのか、それとも・・・
彼の表情を見ても、にこにこと微笑んでいて掴みどころがない。

「あ、あの…離して?」

「もう少しええやん」

何もここじゃなくても…と思ったものの、心音と体温と優しい匂いに安堵感すら芽生えてくる。
互いの心音が混ざり合って、他には秒針のコチコチという音しか聞こえてこない。
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