僕
□僕の特権
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悠太君に彼女さんが出来た
勿論応援しよう!と、思う…
「しゅーんーちゃん
何してんの?鏡なんて見て」
「あ、千鶴くん
ちょっと髪の毛を…」
男子トイレの鏡の前
髪を手で解く僕の横に千鶴君が不思議そうな顔で映りこむ
「癖毛…気になって…今更なんですけどね」
「えー?そんな春ちゃんも可愛いよ?」
「あ、はは…喜んで良いんでしょうか」
「もちろん!なーに?色気づいて!まさか春ちゃんにも好きな…子……が…」
急にうつむいてしまった千鶴君に戸惑いつつも「僕は女の子にモテたい、とかじゃないんですけどね…。」と否定した
(あれ?だとしたら僕は一体何をしてるんだろう)
この髪に触れる手を思い出す。
自分じゃなんとも思わないのに、気持ち良くて仕方ないあの手の感触
真似て触れてみる
やっぱり自分じゃなんてことない
思い出すだけで心地いいのに
鏡の中の自分がどうしようもなくだらしない表情をしていて慌てて唇を噛み締めた
(違う違う…そういう事じゃない。
でも)
やっぱりこんなに短く切る事なかったなと後悔した
「いつから好きだったんでしょう…」
「へ?ごめん何々?」
「…いえ、」
言ってほしかった。部活やクラスが同じ分一緒にだっているのだから。
祐希くん程ではないけれど、たくさんの時間を共有してきたのだから。
隣でさらさらゆれる髪を思い出す
あの真っ直ぐな黒髪にも触れるんだろうか
(比べられたらどうしよう )
そんなことを考えて、無い無いと頭を振った
男の髪と比べるなんて有り得ない、あの子にも失礼だ
うぬぼれていた自分が恥ずかしくなった
(いつか来ること
きっと僕にだって恋人が…そしたら違ったって思える、はず。)
そう思ってちらつくのはあの顔
(違う違う)
ぎゅっと眼を瞑って浮かんだ顔を消す
僕の行動が不審だったからか千鶴君が心配そうな顔をしていた
「春ちゃん本当どったの?」
「いえ、すみません考え事してて…」
同じように眉を下げて謝ると千鶴くんは
悩み事ならこの橘千鶴におまかせー!
とおどけてみせた
「本当、なんかあるなら相談してね春ちゃん」
真っ直ぐ真っ直ぐ見つめられて急に真剣な顔をする千鶴君
自分でもわかっていないこの有耶無耶な感情を話してしまいたくなった。
「その…」
「うん?」
「おー、いたいた。
春、帰んぞ」
突然開いた扉から要君が顔だけ覗かせて「手間掛けさせんな」と眉間に皺を寄せた
「はい、今行きますね」
一瞬でつくった僕の笑顔に要君は尚も眉を寄せたけど、隣にいた千鶴君が「要っち!どうして俺にはお誘いが無いの?」なんて抗議すべく飛び掛かってくれたおかげで、「コザル、また春困らせてたんだろ」といつもの呆れた顔に戻った。
長い廊下
前を歩く要君
隣を歩く千鶴君が小さな声で僕の名前を呼んだけど、静かに首を振って何でもないとだけ伝えておいた。
口にしない方が良い
そう思うようなタイミングだった。
何て言うつもりだったんだろう
浮かんだ質問は、どれも千鶴君を困らせるばかりだ
*
最近の僕はおかしい
気が付けば頭の中はあの子と一緒にいる悠太くんだらけ
最初は昔からよく知っている幼なじみに恋人ができたことに動揺しているだけで、きっとみんなも同じだと思ってた。
現に祐希君は認めないの一点張りだったし、要君だって怒りながらも尾行に参加してた、し……
だけど何かが違う
皆とは、少し違う
例えば靴を脱ぐ瞬間、
部屋の扉を閉めきった瞬間、頭を洗う瞬間
思い出す。
((春…))
僕を呼ぶ声
ぎゅっと胸が締め付けられる
湯船に浸かる前に逆上せてしまいそうになる
ぼんやり躯を洗っていると自分が男だと主張するように熱が集まりだす
(やっぱりおかしい…)
自分の躯が嫌になった
(なんで反応してるの)
なんとか落ち着かせようと思っても思春期にはかなわない
おずおずと触れて緩く握る
(何してるんだろう、僕は)
適当に擦るだけで充分硬さを増して、さっさと済ませてしまおう。
頭で想像したのは僕に触れる悠太くんの姿
ハッと我に返る
(なんで…
今何考えてたの僕…おかしい、これじゃ変態だ…)
バクバク煩い心臓に、素直に熱くなる下半身
女の子の裸なんかじゃなくて、毎日のように顔を合わす幼なじみで、…同性で…。
あの手で触れられる事を想像するだけでたまらなくなった
「ッふー…」
息を深く吐き出す
自分の思考がこわくなって背中をまるめたけど、熱さは引いてくれない
たまらず握り直して手を動かせば流れ残ったボディーソープと自分の先走りの助けもあってくちゅくちゅ厭らしい音が鳴った
「ン、ふぁ…ッ、ッ、」
((春…))
「ゆ、…ッ」
((春))
「はッ、……」
声がもれないように喉に力を入れるけど、それでも呼吸にまざって吐き出される
手の平で口を塞ぐとお風呂場なせいもあって息があがってしまう
「ン、…あつ…」
思い描く悠太くんは僕を見つめる
僕の名前を何度も呼んで肩や背中に触れていく、どれも優しくて気持ちいい。
(触れられたい…ちゃんと、もっと)
「…ンくッ」
果てる瞬間は目の前が真っ白になった
(そのまま忘れれたら良いのに…)
手の平に絡みつく僕から放たれた熱
涙がでた
シャワーで流したこの白が自分が男であることの証明のようにみえた
(同性に恋するなんて)
(あの子に嫉妬するなんて…)
気付いた瞬間失恋なんて
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