□今日も明日も1
1ページ/1ページ

「780円になります
…〜ありがとうございましたぁ」

山崎退、高校生。
コンビニでバイトをはじめて半年
仕事に慣れてきた事もあり勤務時間がやけに長く感じる

(まだ30分しかたっとらん)
俺はぼーっとレジ横のおでんを突きながら、立ち読みする客を観察していた

(よく来るよなーあの人…暇なのか、他いけ、ほか)

「…あの」
「ッはい、いらっしゃいませ!」

急にかけられた言葉
俺は吃りつつもお決まりのような返事をする。
心の声が漏れてたかと思った、じゃなくて…

(…モテそう)

目の前にいる男の第一印象はたしか、そんなんだ。

くせのない黒髪に涼しげな目、少し目付きが悪い気もするけど、そこがいいとちやほやされてるに違いない

俺は軽いひがみで男をみあげていた
勿論顔になど微塵も出さないけれど。

例に基づく男前は少し戸惑うように視線を泳がし、外の貼り紙を指差した


「表のアルバイト募集って、
その、
まだしてますか?」

「へ?…あ、はい!
しとりますよ、

あ、面接希望でしたか?」
「はい…夕方からのを希望で…」

緊張しているのか
語尾は消えるようにちいさい
人見知りなのだろうか
俺が店長を呼びにいっている間、その人はうつむきレジ横のチロルチョコを見つめていた



*

2週間後
店長があの人をつれてきた
どうやら受かったらしい

「土方です、よろしくお願いします」

「土方さんですね、俺は山崎です、山崎退。あ、気使わんでくださいね、年下ですし」

「いえ、仕事なんで。」


時間帯の同じ俺が指導係をまかされた

土方さんは大学生らしい
俺の知り合いの大学生とは偉い違いだと思ったが、自分も偉そうに言える立場ではないので黙っておいた

一通り仕事の流れを説明してその日は終わったのだが
飲み込みは早いらしく、教える側としてはとても楽だ。


(けど…)

一方的にオレが説明し、
質問も特になく、
すんなり進むせいで
会話らしいキャッチボールがない



(みえないんだよなぁ…どんな人か)



新人、土方さんは休憩中はタバコを吸いに外へ出ていく
ちょうど腹が減る時間で俺なんかは菓子パンやらをかって食べるのだけど、
それもしない。
適当な世間話を振っても
いつの間にか俺が一方的に話して終わっててしまう
人間観察は昔からのわるいくせなのだが、コレといって何か起こることもない

退屈な日常は簡単には変わってくれないのか
それでもせっかく一緒に仕事をするんだ
何か打ち解けるきっかけはないかと懲りずに策を練っていると、今さっき休憩でタバコを吸いに行ったはずの土方さんが戻ってきた


「戻りました。」

「あれ?早くないですか?休憩しっかりとったほうがいいですよ?」

「……忙しくなる前にと思って」

「…はぁ」
真面目すぎて俺の粗が浮き彫りになりそうだ

「じ、じゃぁ俺もぱぱっと取ってきますね、何かあったらココ、押してください。飛んでくるんで!」

レジにある呼び出しボタンを指差し確認する

「はい」

「…はは、」
(もう少しリアクションを…いや、普通なのかな)


まだ空いてる時間帯だし、土方さん一人でも大丈夫だろう
俺はパンとコーヒーを買って休憩室へ
向かった。
考えることが増えると少しだけ時間が早く感じた



*
休憩室
「〜、はぁーっ…」

軽くのびをすると指先がぴりぴりした

(俺きにしすぎなのかな、
でもどうせならうまくやってきたいし…)

ぼんやりと下を向くと視界の隅に赤と黄色が入った

「ん?」
簡易机の下に隠れるように落ちているそれを拾い上げる
どうやらライターのようだ、しかし疑問はそこではない

「なんでマヨネーズ型?」

ココにはタバコを吸うヒトが1人しかいない
持ち主が誰かはすぐにわかったが、…なんでマヨネーズ



「好きなのかな」

思ったことが無意識に言葉になって出ていた

独り言になったが恥ずかしくなりキョロキョロとまわりを確認する

急に興味がわいてきた

ちらりと監視カメラをみると、新人が映っていて
どうやらメモ帳に何か書いているようだ
こちらから表情は見えないが、手元の様子から昨日俺が教えた事をまとめているのだろう

(まめだなー

あ、客…)

中年のオッサンがビールと弁当を抱えレジに立った

(…あれ?焦ってる?)

俺が一緒にいるときは、やけに冷静な接客態度も
今は心なしかぎこちなくて

(弁当温めすぎな気が…
あ、ほら熱すぎた)

熱くて弁当が持てないらしい
意外とあのレンジは設定が難しい
少しの間ですぐに熱くなりすぎるんだ

(あぁ、袖で…)

飲み込みが早いとおもったけど、一生懸命なだけなのかと思うと、一気に親近感が湧いてきた
真面目なだけで、意外と不器用なのか

(…そっか

休憩がはやかったのも、このライターが見当たらなかったから…?

100円ライターでも買えばいいのに)

俺が勝手なイメージを作ってたのかもしれない
イケメンだから。

(なんだろう…)



少しずつみえてくる土方という人間ににやけそうになるのを堪え、パンをコーヒーで流し込む

(気になる)

ライターを制服のポケットにしまうと、いつもの顔で表に向かった

「戻りましたー、混んできましたね」


「はい」

俺が行くなりホッとしたようで、いつもに戻る接客

(男に…

かわいい…は変かな、俺)
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ