□今日も明日も2
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コンビニでバイトをはじめた

高校の頃は部活に夢中で、バイトなんて考えもしなかったが、
大学は時間もある。

これといってサークルに参加する気にもなれず、
かといってだらけて過ごすのも性に合わないらしい


少しなめていたコンビニの仕事は覚えることが意外と多い

忘れる前にとメモを取っていると店の入り口が開いた

ぎこちない営業スマイルをつくって迎える
「いらっしゃいませ、
こんばんは。」

「おー。」


業務的な挨拶にまさか返事が帰ってくるとは思わなった。

と、言うか…

(なんでこの男がここにいんだ!?)

返事を返した男は何食わぬ顔でデザートコーナーを物色している

(家が近いとかか?
帰り道?や、逆だった気が…)

弁当コーナーに移動した背中を無意識に目で追ってしまう

ぱぱっと適当に選んでこちらを向く男は明るい店内では白ともとれる銀色の髪

ふわふわと髪を揺らしながら雑誌コーナーに移動すると
当たり前のようにジャンプを手に取りこちらに向かってきた

(…天パ?だったのか?

すげー色だよな……)


「…なぁ」


(遠目でしか見たことなかったからな…)


「おーい」


(…触りごこちは…)


「銀さん穴開けるきですか?照れんだろコノヤロー」


「…!!え!?
や、ちげー…

ッい、らっしゃいませ…」
(やばい…
変に思われたか…?)


チラッと男の方を見ると
じろじろと俺を見る瞳とぶつかった

すぐに逸らしたが、
かけられた言葉で再び目が合う


「…お宅、俺と同じ大学じゃねぇ?科ちげーけど。」

「弁当温めますか?」

「たのむわ。って、え?スルーされてる?俺」

なんか見たことある気がすんだよなー
あ、もしかして
大串くん!?
やー久しぶりだなオイ

ブツブツ独り言をいう男

(ちげーよ)

腹ン中でつっこんでおくが、自分を知ってくれていた事に少し浮かれた。
まぁ人違いされてはいるが…

ピピピ

「…アチッ」

また温め過ぎちまった
加減がわかんねぇ

「おい、大丈夫か?
えっと…土方くん?」

「な!!何で名前ッ…」

「それ」

指差された胸には俺のネーム

「あ…」

一瞬でも変な期待をした自分が恥ずかしくなった


「…顔あけーよ?
土方くん?」

慌てて顔に手をやると確かに熱い

ニヤリと笑う目の前の男

意地の悪そうな表情だ

やる気のない目のくせに
俺の内心まで全部見透かされているような気になり軽く舌打ちした。

「え?何今この子、客に舌打ちした!?」

「……お会計
ナッ…777円になります」

「おぉ!まじでか!
なんか今日ついてんのか?パチ屋寄って帰ーるかなー…
…っと、電話だわ…

はいはーい?」

銀髪は電話にでながら
尻ポケットの1000円札をヒラヒラさせて俺に渡してくる

要らないウインク付きだ
無駄に親父臭い

「1000円お預かりします。」
(なんだか…
俺が思ってたようなヤツじゃねー…のか?
むしろ真逆じゃねーか…?)

「…あー、わりぃわりぃ、今から行くわ」


面倒くさそうに電話の相手にそう伝えると銀髪は買い物袋をつかみ、またヒラヒラ手をふり店を出ていった。

(慌ただしいヤローだな…ッタク…)
「…ッやべ!釣り!」

俺の手には渡し損ねた
レシートと釣銭

走って追い掛ければすぐに追いつくだろうか…

けど、またすぐ会える気がした。

これを切っ掛けにしたいとか、そんな不純な動機ではない
ただ、人を第一印象やなんかで決め付けるのはよくないだろ、普通に

希望もこもっているのかもしれない解釈と思考に自分でも少しあきれるが
気になるものは仕方ない

どこにいたって目立つあの男につい目がついていってしまう

初めてアイツを大学で見かけてからずっと思ってたんだ


(どうせすぐ見つけれるだろ、その時にでもかえせばいいよな)


そんなことを思っていると
急に身体から力が抜けた。

思わず壁に寄り掛かる





(…なにに、緊張してたんだよ俺は!)


まだ少し熱い頬を冷ますため、外の清掃から戻った山崎(さん)に在庫整理を自分から申し出た。



「え?いんですか?たすかりますけど」


「はい。」


「じゃぁお願いします!



…あの、土方さん?」



「ア?」

「いや、"ア?"って…

まぁいいや、
何か良い事でもあったんすか?」


「……

…バックルーム行ってきます。」

「えッ?や、…はぁ

…お願いします」




嬉しかったわけじゃない、むしろがっかりしているくらいなんだ



たぶん。

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