□今日も明日も4
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帰ろうとした俺に店長が
スタッフの連絡先を渡してきた


急遽シフト変更しなくてはならない時、基本的に自分達で決めてから店長に了解を得るらしい



「じゃ、頼んだよ土方君」

「はい、わかりました
お先失礼します」

「はい、お疲れさん」


手っ取り早く一番よくシフトのかぶる山崎にメール打つ

(これでいいか…

うわ、寒ィ…)

扉をあけた瞬間吐いた息がキリッと白く変わる


外に出るとすぐに外灯の下を歩く人影に目がいった


その人影はいやに目立つ銀髪で
一気に早くなる自分の正直な心臓に腹が立つ



隣には電話中のピンク頭


(…彼女か?)


今度は腹が痛む

向こうも気付いたようで
手を振り一人でこっちに向かってきた

(彼女は放置かよ?)

俺は反射的に帰ろうとしたが、こないだの釣銭を思い出しもう一度振り返りヤツを待った

一歩一歩にドキドキする

「おー、やっぱ大串くんじゃん。なに今帰り?つか、今帰ろうとしたよね?」


「よう、つか…大串じゃねぇよ……」


(何緊張してんだ俺!
さっさと釣銭わたせ!)


「連れ
いいのかよ、行っちまったけど」

「あ?あぁ、いいのいいのどうせモンハンだし、俺興味ねーけど腹減ったしジミーにでもたかろうと思ってたんだよね」


「ジミーって…」

「山崎と一緒でしょ?バイト
それより飯食った?」

「いや、まだ…」

「じゃ付き合わねぇ?」

「は?な!んで…いきなり…」

この間少し喋っただけのヤツを食事に誘うか?普通
誰にでもこうなのかコイツは

「何、用事?
あー!女かぁ?」

「んなもんねーよ、
けど…」

思いがけない話の流れに戸惑ってしまう
俺にとっちゃ願ってもないチャンスだというのに

(…チャンスってのはなんかいかがわしいか)

「ならいいだろ?飯くらい

野郎にそんな拒まれると思わなかったんですけど!
誰もとって食いやしねーよ?」

「当たり前だろ!
……どこいくんだよ」

(そうだよな、頑なに断るのもおかしいよな
夕飯どうしようかと思ってたし)

「んー決めてねぇけど、
ファミレス?
あ、お宅家ちけーの?なんなら家でもいいぜ?」

ニヤリとやな笑みを浮かべて耳元で囁く銀髪天パ

完全にからかわれているようだ
むきになれば面白がるのはわかっているが、黙っている事が出来ない
くそ寒いのに熱くなる俺の顔
湯気でも出るんじゃないだろうか

「テメーなんかゼッテェあげねぇ!そういうのは自分の女だけにしろ!」

カッとなって自分で言った言葉にまた腹が痛む

「何むきになってんだよ、冗談だっつうの。
女なんかいねーし?」

「……いねーのか?」

「なんで?
あー、なるほど…
もしかして俺、探りいれられてる?」

「ばッ!ちげーよ!
なんでもそっちにつなげんじゃねぇ!
さ、さっきピンク頭のと一緒に居たから…」

「あー、アレ?あれは……きになる?大丈夫よ、そんなんじゃねぇから」
「そんなんて…」
(って俺…ものっそい探ってんじゃねーか)

言って死ぬ程恥ずかしくなった俺は、勝手にファミレスと決めて歩きだす

実はさっきから店長の視線が店側から痛いほど刺さっていたんだ
店の前で騒いだ事については明日謝ろう

因みに山崎がジミーと呼ばれている事には、コレといってコメントもない。

急におとなしくなった気がして後ろの天パに振り返ると、思ったより近くに顔があってビックリした
「うッ…」

ばっちり合わさった目が離せないのは、野郎がやけに真剣な顔をしてるように見えたから



「…なぁ」


落ち着いた声

「…ンだよ」


「土方君てさ、」

(あ、憶えてたのか俺の名前)

「名前なんてーの?」


「……土方、って言ってんだろ」
「しーた!」




「十四郎…」


「ふーん、
土方くんねぇ」

「何で聞いたんだよ!」

「何、呼ばれたかった?
とーしろーくん?」


ドキッっとした
名前ぐらいで、不覚にも
あまり呼ばれ慣れないから余計にだ

「…なわけあるかよ!
いちいち腹立つ野郎だな」
舌打ちをして、今度は隣を歩く


(……あれ?)

今度は俺からの疑問
すごく今更なんだが

「なぁ、
そういえばアンタって…」

「坂田銀時」

俺の言おうとしたことがわかったのかサラッと名乗る

「さかッ…


銀、時…



なんつーか…まんまだな」
「だろ?銀サンでも
銀チャンでも銀時ぃでも、ぎーん?でも好きに呼んでくれて構わねーよ?」

「…おう、坂田な」

忘れるわけないが、何度も頭の中で復唱する

坂田銀時、坂田銀時…

ガキの自己紹介みたいでくすぐったくなった

つれねーなー
とーしろーくんは
と、口をとがらし拗ねるふりをする坂田に思わず顔がゆるむ


「お??何、
…へー、いつもその顔してりゃいいのに」

「は?」

「あ、戻った」

ツンデレマスターだな
小悪魔ですか?
と肩を組んでくる坂田

よくわからんが
俺は拒みもせず、けど赤くなる顔を隠すようにタバコを取り出した

(あ、…ライター)

しぶしぶ戻す
ちらりとみたカバンの中で携帯がメールの着信を知らせて光っているけど、あとでいいか



*


「いらっしゃいませー」



ファミレス


席に座り注文する
腹へったつーわりに甘いもんかよ
とは思ったが黙っておいた。

程なくして先にと頼んだウーロン茶が運ばれてきて
冬で外はさむいが
やけに喉が渇いていていた俺は一気にウーロン茶を喉に流し込む

「にしても意外だわ」

「ぁ?主語言え」

いきなり切り出す坂田
なんのことだと首を傾げた

「名前」

「そうか?別に普通の名前だろ」

「知ってると思ったのに」


「なにがだよ?」

話がなぜだか、かみあってない気がする
何の話をしてるんだコイツは


「大学で熱視線おくってただろ?

俺に」

ブッ!

俺の口に含んでいたウーロン茶は見事に目の前の男に向かって飛んだ

「ちょ!きたねー!かけんな!」

「わりぃ!
って別にみてねぇよ!
自惚れんな!」

一部始終を観ていた店員がおしぼりを持ってきてくれた

サンキュー とニコニコする坂田
女となりゃ誰でもいいのかこいつは

じゃなくて

「本当みてねぇからな!?ちょっと珍しい髪色だなとか、思ってただけで!
別に触ってみてぇとか、
そんなことじゃねぇし、
アンタのまわりっていつも騒がしいし、…いや!
むしろ俺の目に入る所にいるテメーが悪い!」

「何その逆ギレ!しかも見てたことには代わりねーのな!」

素直だなーとケタケタ笑う坂田

「笑うんじゃねぇよ…」
蚊の鳴くような声で突っ込む、自分でも何を言っているかわからない

何を言っても言い訳になる俺は反論をやめた

やっと来た食事に持参マヨネーズをかけ、目の前でくどそうなパフェを食べる天パに冷たい目を向け

(あ、目合った…
あれ?なんでこいつ
そんな目で俺みてんの?

あー、そうか…)



「「やんねーぞ?」」



ハモった


言い合いが尽きないし、やっぱり腹立つ野郎なのは明確だけど、いやじゃない
飯もうまく感じた
腹減ってたのもあるけど。

有り難うございましたと頭を下げる店員を背に外へ出る俺たち



「信じらんねぇ…
ありえねぇ…」



「いやー美味かったな

ま、まぁ…
その内俺おごるし?
気にするこたーねぇよ、
土方君」

「そういう問題じゃねぇ!誘っといて財布持ってきてねぇってありえねぇだろ!」

俺は心底軽蔑の視線をこの天パに浴びせる

「かてぇこというなよ、楽しかっただろー?」

「ッ〜…全然!
今度奢らすからな!」

「任せなさーい
銀サン約束は守る男だから」
「おー、そーかよ

あ。」

「ん?なーに?」


「釣銭…


まぁいいか」

「なんだよ?釣銭??」

「何でもねぇ、
貰っといてやる」

もちろん呆れてもいるが、このやりとりが楽しい

ちらりと坂田の様子を伺うと、急に真剣な顔

「で…土方君。
家いく?」

「いかねぇよ!またそれか!さっさと帰れ!」

「はいはい
じゃぁなー」

やっぱダメかーと笑いながらヒラヒラ手を振り歩きだす坂田

「…おう
じゃぁな」

こないだまで何の接点も無かったのに
飯食うとかすごいよな

(それなのに)

意外とあっさり帰っていくアイツに
寂しいなんて思うの可笑しいだろ。


(…そう言えば着信…)

ちかちか点灯していた携帯を思い出す
カバンをあさろうと思ってやめた

(かえってからでいいか…)

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