□今日も明日も6
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いつもの時間
いつもの仕事
いつもの客層


退屈で地味なだけの品出しや検品だって、寒いし重いし面倒だった飲料補充だって、最近はアンタが居るから楽しくすら感じてたのに

「…何で休みになっとるのー!?」

土方さん!



思わずもれた俺の言葉に

店長が丁寧に返す
「日曜のパートの人が
用事があるからこの日と交換してほしいって言ってきね
丁度土方君がいて助かったよ」



(俺だってあったんだ!
パートのおばちゃんなんかより大事な用事が!)


思わず事務所の簡易机に突っ伏した

(渡すつもりだったのに…
これ)

手の中にあるマヨネーズ型のライターをカチカチと鳴らしながら深くため息を吐いた

飽きる程眺めた黄色と赤
意外と手にフィットして使いやすい気もする

お守りみたいに持ち歩いたここ数日間、どう渡せば
土方さんのまた違う一面が見れるかとか、そんなことばっかり考えて意気込んでいたせいで、休みが替わっていたことに気付かなかった

朝から何度目かわからない溜息は俺の中の元から多くないであろう幸せまでも連れて出ていくにちがいない

急降下するやる気という名のモチベーションは簡単には上げれんよ…土方さん


(メールで教えてくれたらよかったのに…)

仕事中も業務用の掃除機を引きずり回しながらそんなことを考える


ぼんやりしていたせいで
掃除の途中、立ち読みしている客の足に2、3回掃除機をぶつけてしまい、それを見ていた店長に注意された


「ダメだよ、山崎君
気持ちは分かるけど、あからさまに邪魔オーラだされちゃお客さんだって居にくいだろ?」


「…はい、すみません…」
(わかるのかこの気持ち)

「や、わかってくれてるならいいんだけどね?」


「すみませんでした、次から気をつけます…」
(あー…あいたいなぁ…何してるんだろう、休みの日は)

「わ、わかってくれてるならいいから!そんなに落ち込んだ顔しないで!そういうのオジサンの方が気にしちゃうから!ね?」


「はい、

すみませんでした…」
(あ。メールしようかな、そう言えば店以外の土方さんを何にも知らないんだな俺って)

どうでもいいメールでも送れば返してくれる
短いけど…あの人っぽいメールだ



いつもはへらへらした顔なのにどうしたんだい?
若者は難しいなぁ


聞き流していたらそんなことを言って困っている店長


(へらへらに見えるのか…
気を付けよう)



忙しい時間帯も過ぎ、ある程度客もさばき終わった店内、

バックルームの清掃をしてくると行ったっきり長々帰ってこないパートのおばちゃん

(さぼってるな…)



手隙になった俺は(暇潰しに)おでんをただただつつく作業に入る事にした

チラチラなかなか進まない時計の針を見つめる

(もうそろそろ上がれるな)

入り口が開く音が聞こえたから、反射的にいらっしゃいませーとはいうが早く帰りたい俺は内心混まない事を願った
ぷかぷか浮かぶおでんをつつきながら


(やべ…大根ボロボロだ…)


「あの、」

「!ッはい、いらっしゃい……ませ……」

「お疲れさん…です」

「はい、え…あれ?」


考えてばかりいたから


「前通ったから、何となく寄っただけなんだが、

飯買ってくかなって…」


幻覚まで見えたのかと思った


確かはじめて出会った時もこんな感じに声をかけられた
あの時がフラッシュバックして甦る

(あの涼しい顔に嫉妬したんだった)


何食うか…
そういって弁当コーナーに向かう背中に慌てて声をかける

「ッ、土方さん!!

マヨネーズのライター!」

「…あ、あ?」
肩をびくつかせて振り向く土方さん

(やっぱり可愛い)

「………あ、ありました」

ライターを握り締めた手を前に突き出す


でか過ぎる俺の声に他の客まで振り返った


あんなに、何て言って喜ばせようか考えていたのに
会えた嬉しさに結局は勢いに任せて出てしまった言葉

(うわぁー…)

テストで満点をとったことを誉められたい子供みたいだ

(カンニング疑惑あるけど)

カンニングのような三文芝居
仕舞には今更になって隠してた事を黙っていた罪悪感も込み上げてきて、土方さんの目が見れない

(余裕が…)


土方さんが近づいてきて俺の手からライターを受け取った

ほんの一瞬触れた指先が熱くて熱くて仕方ない

「ありがとな」


ボソッと返してくれた言葉に思わず顔を上げると土方さんは
ひいき目でみたって勿体なく思うくらい優しい顔で笑っていた(ような気がする)

(何人の女性にそんな顔見せてきたんすか)

(…そんな顔…)


バイト中変わらなかった顔が思わずつられてゆるむ

「い、いえ」

「どこに落ちてたんだ?」


「へ?あ、いや、本の…ザッ、雑誌の在庫の箱の中に…」

渡す事ばかり考えていて、どこに落ちてたなんて
言い訳を作るのを忘れていた
出任せ出適当なことをいう

明らかに不自然な答えなのだが

そーか、見逃したんだな俺

と土方さんは納得してくれて

(…そんなんじゃ
騙されちゃいますよー?

俺みたいのに)

普段の土方さんがちょっと心配になった


でも、これはチャンスじゃないか?俺の頭はすぐに次の展開に切り替わる


「土方さん!俺もうあがりなんすよ」

「ああ、お疲れさん」

「よかったら、飯いきません?そこのファミレスとか…」

「あ、いや…」

「ダメですか?すぐ着替えてくるんで…」

「ダメじゃねぇが…ソコは…」
行ったばっかだしな…
と悩む土方さん

ライターの手前きっと断わらないとは思ったが、なんでファミレスに渋るんだろう


「…なんなら俺、手料理でも振る舞いますよ?土方さん家で!なんちゃって」


「またそれか!」

「…ん?どれですか?」

いきなりつっこまれた


「あ、…わりぃ、間違えた
駅前にしねぇか?
ライターの礼もあるし奢る」

「…はい!!」

誰と?、何と?、間違えたのかはわからんけど…
そんな事今はどうだって良い

(なんかわからんけど…誘われたんだよね?これ!!)

俺は嬉しくてこの上ないスピードで帰る準備をする

今度はご機嫌だねと店長に突っ込まれたけど、笑って流した
口を開く間も惜しいくらいに急いでるんです

忙しいねぇ、なんて笑う声が聞こえる


沖田さんから坂田さんの家に集まっているから終わったらこいとメールがはいっていたけど

(絶対狩りだ…)

用事があると短くメールを返してカバンに放り込んだ


急いで外に出ると土方さんがタバコを吸いながら待っていて

そういえばタバコを吸ってる土方さんをはじめてみるな…なんて観察する

(似合うなぁ…)

こんな時、まだ高校生な自分が少し悔しい

「わりぃ、タバコ苦手か?」
「全然!」

全然…って、と少し笑われたが本当に嫌じゃない


他の人のタバコは煙いし嫌いだけど、この匂いは土方さんだと思うとちょっと嬉しい


(変態みたいだな、俺)


最初はあんなに無口だった土方さんも、聞けば話してくれるようにもなった
店も新しくできた処で、

来てみたかったんだよな

とコンビニで見せる顔とはまた違う土方さんだ




「そういえば、
俺の知り合いと同じ大学なんすねー
土方さん、

坂田銀時って言うんすけど、知っとります?」



「…あ、あァ…



目立つからな、アイツ

科はちげーけど…」



「ア、やっぱ目立ちますよねあの頭、その坂田さんが
こないだ引っ越したんですけど、その手伝いが大変で…まだ筋肉痛とれんです」


「へぇ、どこにだ?」


(あれ、食い付いた

けど…)



「此処からわりと近いんですよ、
今日その新居に俺の友達も押し掛けとるみたいで、
溜り場になっちゃいそうですよねー」


「そりゃ騒がしいだろうな」

(あ、呆れた顔)


「そうだ、土方さんもその辺ですよね?家

今度遊びに行っちゃだめですか?」



「…今度、な」


少しあわせるような返事だけど、拒まれなかったことが嬉しい



(今度、があるのが楽しみなんですけど…)




「なぁ、携帯」


「はい?」


「お前じゃねぇか?鳴ってんの」


「…本当だ」


耳いいですねーなんて言いながら確認する

着信 沖田


(うわー…切っときゃよかった)


鳴り終わるのを待てども留守番設定をしていなかったからいつまでも鳴っているだろう…



「…でねぇのか?」



「…や…すみません、

失礼します







はい、山崎です

…もしもし?

あれ?…もしもーし?」



[ガタガタッ…

あ、出てたか、
ハンズフリーにしてたんで気付きやせんでした]



「……


で、どうしたんです?」



[今どこでィ]


「駅前の新しくできた飯…いや!ちょっと仕事中で!まだ店の裏で!忙しいくて!」


[もしもーし、銀サンでーす。なになに?ジミー
飯屋にいんの?


そうみたいでさァ]




「…あんたら」



[デザート揃ってるか?]


「いえ全然」



[今向かうわ

おい、オメー等ゲームいい加減やめろー、飯行くぞ飯


こいつらピコピコピコピコうるせーんだわ、じゃ後でな]




「………


すみません、
土方さん…」



「あ?気にすんな、電話くれーで」




「出ませんか…」




「は?まだ来てねーだろ、飯


用事か?なら俺は食って帰るから先でていいぞ」



「や、用事とかでは…

噂をするとなんとやらっていうか…」



「なんだよ、はっきりしねーな」


「その、今の電話友達からで、坂田さんがですね
今から皆で来るって」


ガタッ


いきなり立ち上がった土方さん
びっくりしているようだ



「…え?土方さん?


…すいません、
折角のデーッ…食事が
騒がしくなるかと」


人見知りそうだし、緊張するかな?


「坂田も…くるのか?」



「あ、はい…気まずいですよね、いきなりじゃ…」


(俺は心底会わせたくないけどね!!あの人好きそうだし…)


「…まぁいいんじゃねぇか?」


「え?



…いいんですか?」



「…おう」




(俺はよくないんですって!)





程なくして入り口に坂田さんと沖田さんが現れた


(いろんな意味で目立つな、あの二人)


こんな時だけ行動早くないですか。






続く

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