□今日も明日も9
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朝、大学に行くために部屋を出た俺は玄関の前で足止めを食らった


「…おはよーさん」


「…おぅ、」


いきなり隣の部屋から飛び出てきたコイツは起きたてなのか寝癖がひどい


「いやね、ドア開く音聞こえたからよ…その、」


「…」



昨日は結局、本当にそのまま帰ってきてしまった。


「あのよ、土方くん。」


眉間に皺を寄せ難しい顔をした坂田は気まずそうに俺を見る。一瞬目が合ったがお互いにそらす。
それきり話し出さないでいる坂田のかわって俺が口を開いた


「わりィ、遅れちまう」

その場に居るのが辛い
昨日のアレは無かった事にしてくれ。なんて言われそうでコワかった

下を向いたまま歩きだした俺は前には進まなかった

進めなかった

しっかりと俺の腕を掴む坂田、見逃してはくれないようだ。聞こえないよう深く息を吸い気持ちを落ち着かせる。こいつに触れられただけで俺の心臓は震えんだ。

ゆっくりと、今度はしっかり見つめる
陽射しが銀色の髪にキラキラ反射して眩しかった

「俺…」

坂田は何か言い掛けたが
なんて言やいんだ…と頭をかいた


大の男が二人、部屋の前で腕を捕まれたまま立ち尽くすのは、正直恥ずかしい。


「ォ、おい、腕はなせ」

「やです」

即答。
コイツは周りの目など気にならないらしい

なおもブツブツと独り言をもらす坂田は、漸く何かに気付いたような顔でこちらを見た


「土方君。俺、どうしてもっつうなら下でもかまわねぇよ?」


「は?」

出来ればリードしたいんだけどね?男だし。やっぱりそこは大事だよな、うん。
納得するように一人頷くこの天パはいったい朝からナニを言ってんだ


「は?」

俺は青筋が浮かぶのを堪えながらもう一度聞き返した。別に聞えなかったわけじゃねェ

さすがに坂田もその違いくらいはわかったようで
違う!なんか違う!と手を振った


「俺が言いてぇのは!

土方君が男だとか、そういうの気にしねぇって意味で!」

「…そーかよ…」

確かにそこも大事だが、いや、実際一番デリケートな部分だが、俺が聞きたいのはそこじゃなくて

男が何気にしてんだと言われりゃそれまでなんだが、普通じゃないからこそ必要な言葉なんじゃねぇのか…

「…きだ」


「ん?きだ?」


「好きだっつってんだよ!」
俺はアンタが…


「…土ッ」

「じゃもう行く」

喧嘩腰な告白
言葉にしたせいで一気に現実感が増した。

俺は、好きなんだ。

コイツが


早口で坂田の言葉を遮ってもう一度前に歩きだす


「言い逃げは無しでしょ」

「なっ、エッ…」

掴まれてから一度も離されなかった手に強く引かれた俺は坂田の部屋へと引き摺り込まれていった


靴も脱がねぇまま押し倒され、フローリングに軽く頭を打つ

(いてぇ)

俺の視界は天井と口角を吊り上げた坂田で埋まった


「もう一回言ってくんねぇ?」

「何を…どけ、ろよ」

「言ったらな」


「…

ッ…、


す…」

結局言い切る前に俺の口は塞がれた。

ずりーヤツだ

最初から言わせるつもりだったのかもしれない

(心臓が…)

胸板を強く押して抵抗するが全く動かない

(なんだこれ)

きっと力の差なんかじゃなく、俺が本気で嫌がってないからだ


「ン…は、ァ…はぁ…

てめっ…ハァ…」

息があがって上手く話せない

バクバクバクバク
鼓動がうるさい
心臓に耳を貼りつけたみたいだ

また近づいてくる顔を避けるため自分の口を手の甲で塞ぐ

坂田はその手の平にも構わずキスを降らす
手首を捕まれそのまま指が口に含まれた

「おいッ!

だせ…ッて」


「なんれ?」


指の間を舌が這う

「止めろッ…

たのむ…」

震えてしまった声

ピタリと舌の動きも止まった

「わりぃ…」

近づく顔に俺はきつく瞼を閉じる。
だが坂田は俺の目尻に勝手に溜まっていた水分を舐めとってはなれていった

深い息を吐く音が聞こえ恐る恐る視界を開くと、目の前には少しだけ困った顔


「調子のっちまった、」


坂田はゆっくり俺の上から退いて俺に手を差し伸ばす。
黙って手を取ると優しく抱き寄せられた


「土方君、

俺も。」


耳元で囁かれた言葉に息が詰まった。

(それって…)

「……ッヒゥ」

「ちょ!土方君!?何その顔!!」


嬉しくて、
嬉しくて、

今にも瞳から滴れそうな水分をなんとかしようとキョロキョロしていたら


笑われた。

「…笑ってんじゃねぇよ」

「泣いてんじゃねぇよ?」

俺の横腹に回される腕

ふわふわな銀髪が頬をかすめてくすぐったかった
首筋に触れたコイツの耳がやけに熱かった。

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