□秘密基地
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厚手のカーテンで暖かい陽射しは遮断され薄暗い教室。
随分と使われていないのか机や教卓には埃がかぶっている


普通の人間は好き好んで近寄らないこの空間も、アマイモンにとっては居心地の良いものだった





古い木製の教壇の上

動くたび軋む音が耳障りで、アマイモンは音の元凶となるそれを強く押さえ付ける


「こんにちは」


「また、てめぇかよ…」


いきなり引きずり込まれた暗闇に忙しなく瞳をうごかし周りを確認するのは、奥村燐

昼寝出来る処を探し歩いていると突然腕をひかれ
此処に至る


「離せッ…」


加減なく押さえ付けたせいで苦しそうにくぐもった声を出す燐をみてアマイモンは少しだけ力を緩めた

俯せで押さえ付けられた燐は自分の背中に覆いかぶさるアマイモンをきつく睨み付ける
それがこの男に効果がない事は前回学習したばかりだが、手も足も動かない今、逆らえるのはこれくらいだろう


私の許可なく近づくな
とメフィストにこないだの件で釘を刺されたばかりのアマイモンだったが、
見せつけておいて触るのはダメ、遊ぶのはダメでは納得いくわけが無い

兄がそこまで固執する理由が知りたく、いつもコレを目で追う様になった
その内に自分の知らない感情が見え隠れするようになったが、ソレが何かなどわからなかった
破壊衝動と似ていて少し違う


(またか)


軽く自分の胸をさする



「街や学園内はむやみにうろつくなと言われたので、秘密基地を造りました」

ジャジャーンと言いながら此処は自分の物だと主張するアマイモンに
いやちげーよ!とツッコミたい燐だったが、こいつに常識は通用しないだろうと早々に諦めた


まだ締め付けが強かったのか、苦しそうに細められた瞳。青く透き通り
あのキレイな炎を思い出させる。

これを刳り貫いて持って帰ろうか。
そうすればいつでも一緒にいれる気がする。
わざわざ目で追わなくてもいい。いつでもあの青を見ることが出来る。

鋭く尖った指が青い瞳に向けられた




「ッ言い付けんぞ!…アイツに!」


声をはり子供だましのような脅しをする燐。

これは効果を持つ事も前回学習したばかりだ。



ピタリと動きを止めたアマイモンは口の中にある飴をカラコロと転がし、

「兄上には内緒です」

と瞳に向かった指の腹を燐の唇に押し付けた


ここから解放されたら真っ先に理事長室に行って言い付けてやろう

燐は腹ン中でそう決め込んで、この場を穏便にやり過ごすためアマイモンの出方を見る



「…飴いりますか?」


「いら…」

いらないと言おうとしたが口にはすでに飴が。
生温い、少し小さくなった棒つきキャンディ

「おィ、コレ…」

お前が食ってたヤツだろ
喋りにくい口をなんとか動かし抗議する
当の本人は何処からか新しい飴を取出しまた加えていた

「飽きたので」


カラコロ

新しい飴を舌で転がす


「こっちが良かったですか?」


飴で頬を膨らませた燐の鼻先で新しい飴を振ってみせる

「そういう事言ってんじゃねんだよ!」

怒りながらも入れられた飴を吐き出したりはしない燐。悪意が無いアマイモンの行動を無下にも出来ないのだろう


「美味しいですか?」


「…まぁ、」


目を逸らし照れ臭そうな燐

アマイモンの中にはまた、"あの感情"が渦巻く





「やっぱり返してもらおう」

そうしよう。と燐の口から飴を引っ込ぬくと
いきなり引っ張ったせいか歯に飴が当たり痛かったようだ

「さっさと加減覚えろお前は!イテーんだよ一々!」


手元に戻った飴をじっとみつめたアマイモンは屈みこみ燐の唇に自分のを押しつけた



少しだけ唇を離し
「返してください」
と言うともう一度唇を奪う。

甘い。

これは飴じゃなく奥村燐の味なんじゃないかと錯覚してしまいそうだ。


燐の舌は滑り込んできた舌から逃げるもすぐに絡み取られ
噛み付いてやろうかとも思ったが今不利なのは自分だと、思い止まった


舌を吸い、口端から流れる唾液も逃さず舐めとって
言葉通り飴を返してもらうような行為

脳が痺れるような感覚

燐の瞳が虚ろになってきたところで漸く解放すると、上から退く代わりに、シャツの裾に手を突っ込み、横腹辺りで蠢いている尻尾を捕まえた。
逃げないようにだ。

起き上がった燐は睨み付け袖で口を拭ぐ。それが気に入らなかったのかアマイモンは尾を強く引いた



ギャッと短い悲鳴をあげ、
とたんに顔を赤らめる奥村燐をみてアマイモンの瞳は微かに細められた。



次は何をしようかな。







(アインス ツヴァイ ドライ )



悪魔の囁きが聞こえる数分前の話。



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