□処方薬と予防
1ページ/2ページ



「退屈だ。」



奥村燐に近付くどころか、学園にすら入ることすら禁止されてしまったアマイモン。兄を怒らせてしまったのだ。

(怒った兄上は…


…やめておこう。)


思い出すのは勇気がいる。やめたのに背筋が少しだけつめたくなった。

こうなるのがわかっていれば、あの時躊躇せずにあの青を刳り貫いて手元に置いておいたのに。


(兄上はずるい)


今度は独り占めする気なのだろうか?あんなに愉しいモノを。
目を瞑り思い出す姿は少し曖昧なものになっている気がした。たくさん見ていたはずのに。

「それに…」


思い出そうとする度に胸の辺りを締め付けてくる"コノ感情"は何だと言うのだろう。



携帯を取出し、耳にあてる。10コール目で漸く繋がった人物はやけに不機嫌だった。


「アマイモン。くだらん要件なら切るぞ」


私は忙しいのだと唸るように低い声のメフィスト。ここは簡潔に要件をのべる事にしよう。

「胸が何者かに締め付けられます。」

兄の診断は
「風邪のようなものだ。じきに治る」との事。

アマイモンは胸を撫で下ろした。人間の行動を真似してみただけなのだが、思いの外何かがスッとする。


「はぁ、コレは風邪…ですか。」


奥村燐を思うと苦しくなるこの気持ちが兄上が言うには風邪らしい。


アマイモンにとって会いたい理由など必要がなかった。滅茶苦茶だって構わない。
「苦しいので奥村燐で遊びたいのですが。」

「それは心配だ。
その症状が治ったら会わせてやる
今は大人しくしていろ。」

兄が言うには、この風邪は抉ると厄介との事。


メフィストは弟を心配するような言葉を並べる
勿論、感情は微塵も籠もっていない。

それでもこの弟には充分効き目があった。

「初めての風邪です。
兄上、薬を下さい。」
早く治さなくては!と意気込むアマイモン。

思いがけないお医者さんごっこのような展開にメフィストは苦笑した。
どうにか自分の"退屈"をわかって欲しい弟に、飴でも舐めておけ。と一言言い残し電話を切ってしまった。



「…ツマラナイ。」

言われた通りキャンディを舐めると、あの時の奥村燐の味がした。
柔らかい舌の感触まで思い出しそうになる。
また"あの感情"がやって来る気がして急いで噛み砕いた。
棒だけになった元棒つきキャンディ

(あぶない。

風邪回避。)


風邪が治ったら奥村燐に会ってたっぷり遊ぼう。

「そうだ、病の素かもしれないあの舌を噛み切ってこよう。」


「ピッ。」

もう一度かけた電話は留守電に繋がった。構わず話掛ける



「兄上、奥村燐は危険です。」










テーブルの上で勝手に喋っている携帯を横目に茶を啜るメフィスト。
ネイガウスは、呆れたと呟き理事長室を後にした。





「早めの予防をしなくては。」

言葉は独り言となり広い部屋に消えていった。


(私の病が弟にまで感染してしまったようだ。)



_
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ