青
□海の家にて
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(殺生な…)
風呂から戻った俺の目の前には据え膳。
否、布団に寝転ぶ奥村君。
(…わざとですかね)
風呂上がりの肌はまだ火照ってはって、無防備に脚を投げ出し大の字で寝ている。
本当はお風呂も誘ってくれはったんや。
志摩風呂行こうぜー!なんて…せやけど、適当な理由くっつけて後から入った。
何でって?
嫌われてまうから。
この間授業中にウッカリ奥村君でアカン妄想してもうて、その妄想の中の奥村君そらもう可愛くて。それから奥村君普通にみれんのです。そりゃ今は見とりますよ?無防備な寝顔ごっつ拝見しとりますよ。
(写メは…アカンよね)
もちろん可愛いゆうても男なんは百も承知。
こんな気持ちのまま一緒にお風呂なんて入ったら
盛って、ひかれて、仕舞には嫌われてまうんやないか…と誘われた瞬間に頭がフル回転ですわ。
泣く泣く唇震わせながら忙しいふりして断った自分を誉めとったトコやったのに
(なのに…
なんで…
どうして)
据え膳。
(試してはるんやろか)
「お、奥村くーん?
…寝てはるの?」
控えめに揺する
何に期待してるのか
起きてほしいような
欲しくないような声の小ささに我ながら飽きれた。
「…ン、あ?
志摩…風呂あがったのか」
ムクリと起きた寝呆け眼に捕らえられる。
「なんやもう寝てはったん?夜はまだまだこれからなんよー?」
2人きりは緊張してもうていらん事まで口走ってまいそうや。
まだ少し濡れた髪をガシガシタオルで拭きながら不自然な態度を悟られないようにする。
(顔みれん)
そそくさと窓際に座る
細く開いた窓から夜風が流れ込んで心地いい。
「あ、いいにおいだ」
「へ?ッゥワァ!」
振り向くとすぐ後ろに奥村君。脅かさんでよと首に掛かったタオルを握り締める。キョトンとした奥村君はフニャリと笑った。
「わりぃわりぃ、そんなびっくりすると思わないだろー」
「ハハッ、…う、海の匂い好きなん?」
「志摩の匂い」
シャンプーの匂いか?となおも猫のように近寄ってくる奥村君。
(どうしたって可愛えぇ…)
任務なんかよりずっとつらい夜になる気がした。
(心臓持つやろか…)
「奥村君、ちょ、近すぎやないですか」
「なぁ志摩、
なんかお泊まりみてーで楽しいな!」
(そないなキラキラした瞳を俺に向けんとってください!)
好きだから慎重になる。
*
「…いやー、本当大変やったんですよ坊、
あれ?
聞いてはります?」
「帰ねや」