Jigokudo

□Dearest hold…
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幸福を天界に届け、一秒でも長く留まることさえ拒むように帰った蒼龍はその足で地獄堂へと立ち寄った


「………!」

「しばらくぶり」

地獄堂の前でひらひらと手を振って立っていたのは椎名だった

「裕介君…」

流石、蒼龍の気配には敏感になったと豪語していただけあった
近付いてくる彼を察して出てきたのだろう


「私もまさかこんなにはやく君に会えるとは思わなかったよ」

フフ…と困ったように笑って肩を竦めた彼に椎名はゆっくりと近づいた

「学校にはちゃんと行っているのかい?」

「あんたに心配されるまでもないよ」

不敵に笑う目の前の子供らしくない子供の額を少しの叱咤を込めて指で弾いた

「そういう言い方は可愛くない。たまには良次君を見習って素直になったらどうだい?」

椎名の物言い一つ一つにいちいち過敏になる自分もどうかと思うが向こうにも非はある

「それとも君は私以外の人間になら素直になるのかい?」

「何それ?」

しれっと答える椎名

「卿には随分素直に可愛がられていたじゃないか」

「あぁそれ」

自分が相手だと留まることない厭味とおちょくりが飛び出してくる口は卿の腕の中では大人しくなっていた

「本当はあの話を蹴ったこと、後悔してるんじゃないかい?」

「………」

伝説の魔弾の射手の猟犬として今の生活を捨ててついていく…その申し出を彼は一蹴して彼はここへ戻ってきた
しかし最終的には高飛車にも跳ね退けたものの迷いがなかったとは言い切れないのではないのだろうか?

「蒼龍が帰った後に言われたよ。『そのつれない態度も好きだ』ってね」

「………!」

「好きだ」という言葉に蒼龍の顔に少々の動揺が走る

「何、あんたは行ってほしかったの?」

「あぁ済々するね。おやじさんに会いに行く度にいじくりまわされちゃ堪らない」

「ふぅん…」

漆黒の瞳の中に蒼龍が映し出される

それはほんの二、三秒のことなのに焦れる程に永く感じられた

不意に椎名の口許がふっと勝ち誇ったように笑みを浮かべた


「蒼龍って嘘つくの下手過ぎ。行ってほしくないくせに」

「誰が!」

余裕シャクシャクに言い放つ椎名に蒼龍は思わず声を荒げてしまう
それだけで挑発にまんまと乗せられて動き出してしまっているというのに

「何?ひょっとして卿に嫉妬してた?だからそんなに苛々してた訳?」

「う、煩いなっ…」

完全に墓穴を掘ってはまり込んでしまった蒼龍はうろたえる様を必死に隠そうとする




「…行く訳ないじゃん」

「……え?」
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