Jigokudo
□アリスは罠へと墜ちていく
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「で、俺はなんであんたとこうして御茶会と洒落込んでいる訳?」
目の前に広げられたアフタヌーンティーセットをげんなりと見つめながら椎名は一番の疑問を吐き出した
小一時間程前、小腹が空いたのであげてんかのコロッケを買いに地獄堂の前を通ったのがそもそもの運の尽きだった
ガラス戸からわしっと腕を掴まれて引きずり込まれること数十分前、ひひひと呑気に笑う妖怪親父を尻目に(助ける気配は微塵粉程もなかった期待もしていなかったが)未だそのままだった「どこでもドア」に引き込まれてあれよあれよという間にこうして陽射麗らかなテラスに座らされて現在に至る
「折角の御茶にはやはり綺麗処が必要だろう」
「ホステスに就職した覚えはないんだけど?」
目の前の男の言葉をハッと鼻で笑うと椎名は不機嫌そうにテーブルの下で足を組んだ
「美人をご所望ならその辺で見繕ってきたら如何で?」
「相変わらずつれないね。こんなに愛しているのに君はいつだって冷たい」
そう嘆きながらマーカスはやれやれと大袈裟に肩を竦めてみせるがそんなものに絆されるようなお人好しではない
「その台詞を吐いたのは果たして何人目やら」
この遊び人が、と言外に言ってやればまたはぐらかすように余裕の笑み
「なんのことやら」
「白々しいんだよこのカサノヴァが」
「おや人聞きの悪い。私は相手に対して常に誠意を以て答えているつもりだが?」
「どっちだっていいさ。それよりはやいとこ帰りたい」
「何故?」
「午後から見たいレースがあったんだけど」
「レース…?」
その言葉にマーカスの眉が顰められる
「GUだけど結構興味深い組み合わせが…」
「…裕介、一体なんの…」
「日曜競馬中継」
きっぱりと言い切った椎名にマーカスは軽く肩からずっこけた
「私とのティータイムは競馬以下なのかい…?」
「ふっ…」
からかうような笑みを浮かべながら椎名は傍らの金細工の施されたティーカップを手に取った
「でもいいさ。他に誘う相手のいない可哀想なおっさんの為に、紅茶1杯位は付き合うよ」
「ハハ…おっさんとは手厳しいね」
苦笑気味に彼もまたカップを手にし、品性漂う手つきで口許へ持っていく
「では頂こうか」