Jigokudo

□Party night
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人には表向きの顔なんてものはよくあるもので

伯爵の位持っているのも知っていたけどさ…



「裕介、こんなところで君に会うなんて…神の思し召しかな?」

「…俺にはたらしの知り合いはいない。人違いだね」

「私が裕介を見間違えるはずがないだろう?私を惹きつけてやまないその顔、声、孤高の宝石のような…」
「うるさい。その恥ずかしい口閉じろ」


…なんであんたこんなところにいる訳…?


まるで悪夢のような目の前の現実に椎名はただただ溜め息をついた





今日はまた例の如く母に付き添ってのパーティーへの出席だった

人妻でありながら引く手数多な彼女の最強の予防線として椎名はこうして大して好きでもない人込みに足を運ぶのだ

きらきらと会場を照らすシャンデリアがひどく空々しい

華やかな笑顔の中に自慢と嫉妬と嘘と駆け引きが飛び交う胸糞悪い会場…母の為でなければこんなところさっさとお暇(いとま)しているというものだ


仕事関係の挨拶をしてまわっている母を見やりながら椎名は眉を顰めた

「母ちゃん」

「どうしたの?」

「トイレ行ってくる」

「わかったわ。ここにいるからね」

「うん」

そう言って椎名は会場を後にした




喧騒が遠くなった頃椎名は首下にきっちりと結んであったタイを緩めて鬱陶しげに髪を掻き上げた

本当に気分が悪い
あんなところでよくもまぁ笑って飲み食い出来るものだと本気で思う
どんなに料理人が一流でも椎名にとっては家族やてつし達と食べるご飯の方が何倍もおいしく感じる


さて、トイレだと言って出てきてしまった手前すぐに戻らなくてはいけない
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