Jigokudo

□負けたくないの
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ダァーンッ!



澱みない銃声が響き、椎名はゆっくりと意識を集中させる

閉ざした視界の奥に浮かび上がるのはきっかり真ん中を打ち抜かれた的…


「…やるね」
「当然」

さらりと言って男は手にした銃を徐に下ろした



当然ここは日本ではない

この辺一帯民家の類いはなく程よく周囲に障害物が存在するそこは魔弾の射手であるサー・マーカス・ヴァレンタイン卿が弟子達を実践で鍛える修行場のひとつだ




「流石は世に名高き魔弾の射手殿ってとこかな」

「惚れ直したかい?」

おどけたように言いながらさり気なく肩にまわしてくる手を容赦なくひっぱたくと皮肉げに笑った

「今のさえなければね」

「おや、それは失礼した。だが…」

今度は彼に向き直るとマーカスはごく自然に椎名を抱き締めた

「君を目の前にして我慢出来ることなど何一つないよ…」

痛い程には強くなく、けれど簡単には振りほどかせないそれに少年は若干顔をしかめながらもされるがままになる


絶妙な加減を知っている手慣れた腕はきっと自分じゃない誰かも抱き締めているに違いない


そう考えた時に不意にちくりと胸を刺す痛み


さっきだって本当は不覚にも格好よいと思ってしまった


あぁ
自分はこんな時この男に恋しているといやがおうにも思い知らされる


気分はまるで底なし沼に足を踏み入れてしまったみたい

それだと気付いた時にはもう戻れない抜け出せない

もがけばもがくほどに息も出来ないその中に墜ちていくだけ


「っん…?!」

意識を内にやり過ぎたせいか近付いてきた唇に咄嗟に反応することが出来ずにそのままキスを許してしまう

触れるだけのそれから徐々に侵略してくるように深くくちづけられ肩がびくりと震える


キスもそれ以上もこの男と以外には許したこともない

けれどいつも自分を呆気なく蕩かせるそれはきっと巧い方に入るだろうことはいくら経験のない椎名にもわかった


「ん…っん…ぅ……」

無意識にぎゅっとマーカスの腕にしがみつくと頭上で彼が微かに息を飲むのを感じた

「ふ…いじらしいことを」

「う…るさいっ」

顔を羞恥に赤らめてしまえば強がりさえも意味を成さない
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