Jigokudo

□黄昏よりも昏きモノ
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黄昏は魔の刻
さぁさよい子ははやくおうちへお帰り


でなければ……






地獄堂からの帰り道、分かれ道でてつし達と別れ椎名は一人家へ向けて歩いていた

マンションまで後10数メートル、辺りは夕焼けのオレンジから薄青紫色が徐々に浸蝕し始め夜の訪れを物語っている


夏も終わり秋になると日の落ちる時間もはやくなってくる。夏休みの今頃ならまだ三人で遊び回っている時間だったのに


視界の端を通り過ぎていく蜻蛉を何気なく見送りながら椎名は歩く



(母ちゃんはまだ仕事かな…)

そんなことを考えながらポケットの中の鍵を探っていると、ふとしたはずみに先程リョーチンから貰ったハチミツキャラメルがひとつポケットから転がって地面に落ちた

「っと…」

歩を止めてそれを拾い上げようとした時椎名は妙なことに気付いた


微かだが自分が足を止めたほんの一瞬誰か別の足音がしたのだ。
人の気配は感じなかった。だが今ので椎名は直感的に悟った。気配がなかったのではなく意図的に消されていたのだと


並の人間じゃない
或いは本当に人間ではないのかもしれない


どちらにせよ気配を隠して近づいてくるような奴だ。ろくなのではないことはわかるが


(さて、どうする…?)

先程から何度も試みているが霊視は効かない。気配を探れない。なのにこちらが気付いたことにあちらも察したのかわざとらしく足音だけは立ててくる
微かだが確実にそれはこちらに近付いている

わかるのはそれだけ


椎名はポケットに入れてある経典を握りしめると背後にあるそれに対して身構えた
……が、至近距離まで来た時に唐突に見えたそれに椎名は思わず眉を顰めた。そして経典から手を離すと別の意味で身構えた


やがて足音は背後で止まりふ…と何かが素早くこちらに伸ばされ………


「だーれだ?」

という言葉と共に瞳の上に両手が被せられた



その聞き覚えのある声に椎名は間髪入れずにそいつの鳩尾に肘鉄を叩き込んだ


「ぐっふ……?!」

「気安く俺に触るな、バカツキ」

「なんやねんな、ちょっとした茶目っ気やん。いきなり肘鉄とかなしやでホンマ」

「気配消して後つけるとか嫌らしいにも程があるだろうが」

「びっくりさせよ思うただけやん。そないに目くじら立てんと、な?」

「な?じゃない。というか何か用か」

こうしてわざわざ一人の時を待って行動に出てきたのだ。用があるのは椎名だけなのだろう
彼の性格上、単にからかいにくるなら三人でいる時だろうと地獄堂にいる時だろうとお構いなしのはずだから






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