Jigokudo

□Just trust Me
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誰かを愛するその想いさえ
時には弱みに変わる





「裕介君あっそびーましょーう♪」

まるで一昔前の家に遊びに迎えにきた子供のように可愛らしい物言いも、それを言う人間によってはひたすらウザイものに聞こえる

とりあえず目の前のこの男は確実にそのウザイ方に当て嵌まるだろうなと思いながら、椎名は冷たい眼差しでそいつを睨みつけた


「…断る、離せ」


こんな道の往来でブロック塀に押し付けられまるで強引なナンパでもするみたいな格好でいたらいやがおうでも目立つというのに

こんなところ知り合いに会わなければいいけれど…と思いながら椎名は暁の月食のような眼差しからふいと目を逸らして舌打ちをした


折角あげてんかのコロッケを買いに出たのに……もたもたしていたらお目当ての味が売り切れてしまうかもしれないのに

「触んな、汚らわしい」

「冷たいなぁ自分。でもそう言われると余計に欲しなるわ…」

「裕介?」


自分と、目の前の妖怪以外の声がいやに大きく響いた

それが鼓膜を揺らした瞬間、椎名の瞳はこれ以上ない位に大きく見開かれびくりと強張った肩がカタカタと小刻みに揺れた


「裕介どないしてん…」

「りゅ…や…兄……?」

悸いた唇が誰かの名を紡ぎ、声がした方へそっと眼差しが向けられる

それにつられるように視線をやったそこには……椎名に雰囲気がよく似た中学生位の青年が不審げな目で二人を見つめて立ち尽くしていた


「……なんや、自分兄貴おったんか?全然知らんか…」

「あんた、俺の弟の友達に何してんだ」

「??おとーとの友、達…?」

返ってきた予想外の答えに暁は目を丸くして、もう一度まじまじと彼を見た

黒髪と、怖じけづく様子を微塵も見せることなくこちらを鋭く見据える眼差しがよく知った奴にダブる


あぁ、そういうことか

頭の中で合点してから暁は似ているけど似ていない兄弟だなと苦笑してから椎名の方に向き直った

彼は……先程の態度が嘘のように酷く怯えていた


勿論暁に対してではない、突然現れた彼に対してだ


「どないしてん?顔、真っ青やで」

戯れに頬に指を滑らせるとびくんと身体が震える
勿論拒否反応のそれだ

だが、いつもの憎まれ口が今に限っては何故か出て来ない


…面白い



彼が言葉を詰まらせるなんてそうないことだ。一度だけあったが、その時もこちらを昂ぶらせてくれる好ましい顔をしていた
丁度こんな風に





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