Jigokudo
□Perfume of love
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遊びなんだって言ってよ
そしたら少しは気が楽なのに
「…何これ」
「愛の証にと思ってね」
贈り物に百本の赤い薔薇というのは、聞こえはよくても実際貰ったらひたすら迷惑だと思う
香水にも使われる程の香しい香りもこれ程の量ともなれば頭痛を催す程に不快でしかない
「今すぐ持って帰れ」
「折角君の為にと持ってきたのに」
「こんなに入る程にうちにデカい花瓶はない」
「おや、それは失礼。なら今度は花瓶持参でこよう」
そういう問題ではないと言うより先に溜め息が洩れる
不自然に増えていく花やら贈り物の類いでただでさえ母は不審に思っているのだ
どう言い訳しろというのだ
「贈り物はもういい。…物増えるの迷惑」
「だがそれらがあれば会えぬ時間も私を感じていられるだろう?」
確かに物に込められた彼の気を常に感じてはいるけれど、こうも多くては流石に息が詰まる
椎名としては元々束縛されること自体が好きではないのだ
「そのお陰で親爺にはしょっちゅう茶化されてるんだからな。恥ずかしいったらないだろうが」
「愛する事に恥じる必要など何一つないだろう」
「アンタの価値観で言うな。俺は恥ずかしい」
手をとってくちづけようとするのを素っ気なく振り払うと椎名は迷惑だと瞳に滲ませながらマーカスを睨み付けた
「なら、君は私のことなど嫌いだと言うのかい?」
「…TPOを考えないで愛を押しつけようとする男は嫌いだね」
「ふむ…日本人というものはシャイなものだな」
言いながらマーカスは何を思ったのか部屋の扉の鍵を閉めてそれから少し歩くとカーテンをきっちりと閉めた
「これなら邪魔が入らないだろう?」
ベッドの上に椎名を腰掛けさせながらマーカスは悪戯っぽくウインクを贈った
「…もうすぐ母ちゃん帰ってくるんだけど」
「母君なら構わないだろう。イイ機会だから挨拶を「絶対やめろ」
知り合いだと紹介するにも苦しすぎるというのに何かとんでもないことを言いそうで恐ろしい
「…困ったね。どうしたら君に私の愛の程を伝えたらいいのだろうね」
「…別にいいよ…」
「裕介?」
「…いっそ、遊びだって言ってくれた方がまだ気が楽だ」
そう言ってぷいとそっぽを向いてしまう椎名をマーカスは苦笑しながらそっと抱き締めた
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