Jigokudo
□Butterfly's pray
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見つめないで
近寄らないで
「…そういうあんたはどんな夢を見たの?」
蒼龍の指先が髪に触れる寸でのところでそれを遮るかのように椎名は尋ねた
からかうようにこちらに話のペースを持っていけば相手はたやすいほどに乱されて激昂して、先程までの彼の纏っていた空気は綺麗さっぱりなくなってしまった
それを察しながら椎名は余裕ぶった眼差しの奥でひそかに安堵した
それはあまりに子供じみた言い方をするなら蒼龍に弱みを見せたくないという意地であった
そしてもうひとつ……
「俺は好きだよ、可愛い魔法使いさん」
ほら、そう言えばあんたは俺から離れていく
それでいいんだ
だって……
あんたは俺と似ているから
だからこそ怒らせ方も突き放し方も………そしてあんたの対に俺がなれないこともよくわかっている
似ている俺達
多分夢見た内容も同じ「どんなに願ってもけしてありえないこと」
ありえないと知ってるが故にそれに全てを委ねることが出来なかった
彼を信じる自分がそれを許さなかった
自身のエゴを否定するために
「きみだけはどうにも好きになれそうにないよ、裕介君」
それでいい
それでいいよ、蒼龍
俺達は相容れない存在のままでいいんだ
俺達が寄り添ったところで所詮それはただの傷の舐め合いにしかならないのだから
でも、だったら、この胸の奥に巣くうこの胸の痛みはどうしてなんだろうね
わからないふりして
平気なふりして
俺はあんたに背を向ける
人の幸せ不幸せを決め付けるのは傲慢かもしれない
けれどわかりきった結末をわざわざ辿る程に俺達は馬鹿じゃないから
ただ俺は
貴方の幸せだけを願いたいと
そう思った
END
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