Jigokudo
□光と闇の狭間で揺れる甘美なる憂鬱
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「よう、椎名やないか。お久しゅう」
よりにもよってひとりの時に出くわすなんてついてない
…否、こいつのことだ。案外一人の時を狙って現れたのかもしれない
「今日はあの喧しいお子様二人はおらんのやな。丁度ええわ」
わざわざ口にするところがまた酷く白々しい
なにもかも見透かすようなその眼差しはおどけてみせる今でさえ冷静に椎名の胸の内を探り当てているに違いない
「あんたも相当暇なんだな。このプータロー妖怪」
「別に金に困ってへんしなぁ。俺の場合。それに人間に遣われるーとか考えられへんわ、想像しただけでマジウケルわぁ」
けらけらと笑い飛ばす暁に椎名はそれもそうだなと妙に納得してしまう
持ち物はさりげなくブランド品だし特に血色も悪い訳でなく(何食って生きてるかなんて知らないし興味もないが)、それにも増して暁が誰かの命令をほいほい聞いて健全な肉体労働ー…なんて想像しただけで寒い
どうせろくな方法でとってきたものではないのだろう。むしろ奴はそっち方面に長けていそうだ。頭で稼ぐタイプというか
「ま、立ち話もなんやしこれから茶でもどない?奢ったるで」
「断る」
「冷たいなぁ。お前には色々聞きたいことあんねんで。ほら、お前らこないだ俺の愛しーい蒼龍と一緒に幸福狩りに行ってきたやろ?どないやった?」
「どこでそんな話……」
「お兄さんは何でもお見通しやねんで♪」
本当いちいちテンションが高い妖怪だと思う。何だか今まで自分が出会ってきたどのタイプのものとも違う
明らかに敵意があるもの
こちらの存在など意にも介さないもの
こちらに救いを求めてくるもの
そのどれとも違う
妖怪と一口に言ってもやはり様々なタイプがいるものだ
世の中はまだまだ広いものである
「別にとって食うたりせんで。安心しいや」
「とって食うとかそういう以前の問題だよ。あんたどうにも胡散臭いし」
「あっ、信用してへんな?!大丈夫やて!その辺の政治家連中よか信頼置けんでこれホンマ!」
「……………ふっ」
本当につくづく陽気な奴だ
思わず吹き出してしまった椎名に暁はしめた、というような顔をした
「ほな、行こか」
差し出されたその手を降参とばかりに椎名は受け取った
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