Jigokudo

□光と闇の狭間で揺れる甘美なる憂鬱
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「おっ、きたきた。ほな食おか裕介」

程なくして運ばれてきたパフェに呑気にぱくついている人間もどき。こいつはこう見えて恐ろしく頭も勘もいい

鉄鼠の時もこいつの言った言葉「お前ら人間は何がしたいねん?」という問い掛けに俺はとうとうまともな答えを返すことが出来なかった。こいつは人間社会の暗部を、矛盾を、愚かさをよく理解していた

仮にこいつが人間を滅ぼそうとか考えたとしてもこいつはきっと自らの手を下すことはしないだろう。否、する必要がないからだ

そんなことをしなくても今のままでいけばいずれ人類は滅びる


自分はそれを自分なりに楽しみながら見ているだけ
こいつは多分そういう奴だ



「なんや、ものごっつい眉間に皺寄ってんで?やっぱりお子様にコーヒーはきつかったんと違う?」

そんな心の内を知ってか知らずか暁が椎名の顔を覗き込みながら眉間をちょんちょんと指で突いてくる

かなりウザイ


「ほれ、パフェ分けたんで。あーんしてあーん」

「やめろ馬鹿恥ずかしいことするな!」

「あーん」

「むご…っ」

こってりとしたクリームが乗ったスプーンを半ば無理矢理口の中に突っ込まれ甘ったるい味が口腔に拡がる


「間接ちゅー☆やな」

「……今すぐここで中身ぶちまけてみるか?」

「?!ちょ…やめて!外でリバースとかかなり恥やん、お嫁にいかれへん!!」

「心配するな。誰もお前を嫁に欲しいとか思わないから」

「酷っ!冷たいなぁ…そんなら俺が嫁に貰ったるー位言えんのかいな」

「ざけんな」

「まぁ裕介はツンデレやからな。そのうちデレもみしてやー」

「一生有り得ないな」


叩いても叩いても手応えというものがない。気分としては起き上がり小法師人形をぽこぽこ叩いてるようなものではっきり言って不毛だ。こちらばかりがただ疲れるだけ

本当に調子狂う……

「本当見た目馬鹿そうなのにな」

「えっ、俺の事?っちゅーかいきなり暴言?あ、そっちのチーズケーキ一口もーろた」

「あっ」

「えやないか。さっきのパフェのお返しもろてん」

「くれと言った覚えはない」

「ほんま裕介はツンばっかやなぁ。あかん、泣きそう……」

「泣いてろ」

正面の席であからさまな嘘泣きを演じている暁を放っておいて椎名は残りのケーキを口に運んだ





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