Jigokudo

□光と闇の狭間で揺れる甘美なる憂鬱
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何でこんな長居してんだろうなぁ……ぼんやりとそんなことを考えながら椎名は再び目の前の暁に向き直った

それにしても暁は本当によく喋る

ブランド物から最近ハマってる食べ物とかファーストフードの新商品がどうだったとか

それらに適当に相槌うって何か感じるものがあれば自分も返して、気付けばあれ何だ結構会話になってんじゃんと自分で気が付いて
また溜め息が出そうになる


店員のコーヒーのおかわりを丁重に辞退しつつ椎名はさりげなく切り出した


「もうこんな時間だし、そろそろ帰りたいんだけど」

「なんや付き合い悪いなぁ。…でも、ま、しゃあないか。ほな行こか」

わりかしあっさりと飲み込んだ暁は傍らの伝票を掴むと会計をしに先に席を立った
そういえば奢ってもらう約束をしていたなとぼんやりと思い出しながら椎名もその後に続いた








外に出ると少し冷たい風が頬を撫で椎名はぶるっと肩を震わせた

すると暁はさりげなく肩を抱き寄せて「寒いか?」なんて聞いてくる

「する相手が違うだろう?」

「あ、えぇねんえぇねん。俺裕介の事も好っきゃねん」

さらっと何を言うのやら
好きにしてはあまりにも軽すぎて信用に値しない

ふーん、とこちらも軽く受け流して暁の手をとったその時だった


夜闇の中で奴の紅玉みたいな瞳がネオンに瞬いたかと思うと次の瞬間ダンッ!と物凄い勢いでコンクリートの壁に背を押し付けられてぐいと上を向かされた


何事かと見開いたその瞳の先に先程の陽気なそれとはまるで違う暁の顔があった



「なぁ裕介……幸福狩りン時、何 が あ っ た ?」


暁の言葉に椎名の心臓がビクン!と跳ねた

その僅かな動揺に確信を得たかのように目を細めた暁は殊ゆっくりと椎名を追い詰めるように囁いた


「前ン会った時とな、感じ違うねんお前。色気っちゅーの?それがぷんぷんしとる。…なぁ、何があった?」

「………」

「幸福はそいつが心のいっちゃん奥で願ってるもんを見せるっちゅー話やったな。……関係あるんちゃう?」



……そう、暁は恐ろしく頭と勘がいい

こんな風に





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