Jigokudo

□First Step
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しかし振り返りはせずにハァッ…と白い息が広がり返事が返ってくる

「…………何?」


聞きたいことは沢山頭を過ぎった

さっきのこと
今この瞬間のこと


そして…この胸に広がり始めた感情の答を



「…今夜…もう一度会えないか」


思わず口をついて出た言葉
まるで逢い引きの誘いのようだ


「もし…俺が来なかったら?」

「それでも待っているから。…君が来るまで」

その瞬間彼の細い肩が微かに震えたような気がした

応えのないまま椎名は行ってしまった

そしてその場に立ち尽くす蒼龍の姿だけがあった





世界が変わったんじゃない
あんたが変わったんでもなかった


この瞳に映るあんたが違って見えたのは


俺が変わってしまったからなんだ…






コツン…

まるで椎名が部屋に入ってきたのを見計らったかのように式鬼の鳥が窓ガラスを突いた

「……蒼龍…」

どうしてだろう
名前を紡いだだけなのにこんなに胸の奥がざわめく

きっとこれ以上近付いたらもう…


ガラッ…


そっと窓を開けると椎名は式鬼を部屋の中に招き入れた

それは真っ直ぐに少年の掌目掛けて飛びぶつかり一枚の紙切れへと姿を変えた

「………」

椎名はそれをキュッと握り締めた

そしてコートを羽織り直すとこっそりと家を出た





式鬼が示した場所で蒼龍は待っていた
この冬一番の冷え込みだというのに増えることのない服の枚数は長年の鍛練の賜物とでも言おうか

見てる方にしてみればクソ寒いことこの上ないが


「裕介君!」

静まり返った公園のベンチに座っていた彼が早くも椎名の気配を察知して安堵の表情を浮かべた

自分の中の微かな動揺は彼には気付かれてはいないだろうか?

いつもよりテンポを早める胸の鼓動は彼の耳には届いていないだろうか?


自分はいつものように振る舞えるだろうか

馬鹿な大人のあしらい方は自分でも思う程には上手くなったが、これはまるで分野が違う


「何の用?明日は一応学校行くつもりなんだけど」


はやくしろよ、という態度を匂わせながら椎名は話を切り出した

いつものような言葉遊びをしていたらいつ余計なことを零してしまうかわからない

だからはやく終わらせてしまいたかった


会いたかったと切望していた自分を頭の隅で押し殺しながら


「…今日は、やけに私を避けていた。何故だ?私は君に何か悪いことをしたか?」
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