Jigokudo

□温泉に行こう!
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三人は幸いにもこちらを見てはいなかったようで少し安堵した





「何処へ?」

「折角だから露天風呂の方にも行こうと思ってね」

「ご一緒しても?」

「どうぞお好きに」

どうせ来るなと言っても聞くだなどと思ってはいない

歩幅からして向こうがこちらに合わせているのなんかバレバレなのだから


こんな時他に客がいなくてよかったと本気で思う
身長差もさることながら変な意味で目立つ(今更だが)





外へと続く硝子戸を開けると少し冷たい風が濡れた肌にちくりと痛い

ぶるりと小さく肩を震わせるとちゃっかり隣にきていたヴァレンタイン卿が大きな手で肩を抱いてきた


「歩きにくい」

「後数歩だろう?」

そんなことを言って離す気などさらさらないらしい
仕方なくそのまま進むともうもうと湯気を漂わせる露天風呂の縁へと腰を下ろした


頭上には満天の星空に遠慮がちな下弦の月
竹で造られたしきりの向こうには半分程紅葉で落ちて淋しげな楓の木が並んでさらさらと風に揺れている


座り込んだ御影石は僅かに湯に温められてそれほど苦痛でもなかったが、冷たく澄んだ空気だけはそうもいかず椎名は努めてゆっくり足を沈めるとそのまま露天風呂にと浸かった


「はぁ…っ……」

水の圧迫感に胸を押され溜め息が漏れる


その様子をじっと見つめていたヴァレンタイン卿は言葉を飲んだ



熱い湯に徐々に上気する肌
水気を帯びた黒髪は艶かしく湯から出ている首筋のラインは一級品の芸術のようだ


そこまで考えてから卿は苦笑を漏らした


「なかなかに悩ましげな光景だね……見ているだけなど惜しい位に」

「公共の場所では自重しろよ」

「どうかな」

卿も湯舟に身体を沈め…と言っても等身が高いせいで肩まで浸かることが出来ていないが…椎名の正面に座ると彼の足に絡ませてくる

足の指でするる…と腰のラインをなぞりあげ返す動きでそのまま太股を撫でた
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