Jigokudo
□黄昏よりも昏きモノ
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「ごちそーさん」
「っ…ざけんな」
満足げにぺろりと唇を舐めてみせる暁を振り返りながら椎名は鋭い眼光で彼を睨みつけた
人の身体の自由を奪って餌代わりにした揚げ句あんなことをされるなど屈辱の極みだ
悪びれた様子もなくいつものようにへらへらとしているのも非常に腹立たしい
どうにか一矢報いてやりたいところだが血を抜かれたせいか足元に力が入らない
それでも奴の前で不樣な姿は晒せないと気力で持ちこたえようとするが、それが保ったのはほんの数分だけで椎名はとうとうその場に膝を折ってしまった
「おーお、大丈夫か裕介」
「く…っそ……こんな…」
背後の暁が膝を屈めて椎名の手をとる。先程より少し体温の下がった手の甲に唇を寄せると喉奥でクク…と低く嗤った
「堪忍や。いつも思っとったんや……美味そうやなと」
「っ……妖怪が」
「思った以上やったな。甘くて濃くて……病み付きになりそうや」
微かに震える小さな身体を抱きしめ首元に顔を近付け滑らかなラインを舌でぬるりと舐め上げた
「…ぁ…」
「やらしー声しとんなぁ裕介。ここ、感じるんか?」
言いながらそこをきつく吸う
そうして紅い痕が浮かび上がったのを見て暁はまるで愛おしむように触れるだけの口づけを落とした
「ここ、歯ぁ立てたらきっと美味いんやろうけどな、そうしたらこないに小さい身体あっという間に死んでまうやろうなぁ…裕介?」
そこを執拗に唇で撫でながら名残惜しそうに呟いた言葉はとても冗談のそれに聞こえなかった
「さ、わんな…っ」
「って言われると逆に触りたくならへん?」
「ふざけるなっ」
「可愛いなぁ裕介は。好きやで?」
けらけらと笑いながら暁は椎名の膝の後ろに手を入れるとそのまま横に抱き抱えた
俗にいうお姫様抱っこというやつだ
何の前触れもなしにされたそれに羞恥心を通り越して椎名の頭の中は真っ白になった
「なっ…?!」
「そこのマンションやろ。お兄さんが送ったるで」
「余計なお世話だ!降ろせ変質者!!」
「そんな遠慮せんと。送り狼するのはもう二、三年経ってからに…」
「死ね変態!!」
「はっは、裕介はホンマにツンデレやなぁ」
黄昏を過ぎれば後は真っ暗闇が訪れるだけ
ご用心ご用心
その目の前にいるのは本当に人?それとも……
おしまい
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