Jigokudo

□Just trust Me
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彼の手が退けと言わんばかりに暁の身体を押し退けようとするがこの体格差だ。びくともしないことは以前からわかっているはずなのに

拒絶の言葉はない

その理由に、聡い暁は直ぐさま感づいてますます興味を掻き立てられた

「……なぁ、何も喋れんの?裕介」

「呼ぶな馬鹿っ…」


彼は恐れているのだ。この“りゅうや兄”とやらに暁のことが知れるのを

何も聞いていなかったなら椎名はこんな奴は知らないと突っぱねてさっさと離れていただろう

だが、今回はタイミングが悪かった

こんな状況で、あまつさえ暁が自分を“裕介”と親しげに呼んでいるところを見られてしまっている


なまじ知らない仲ではないのだろう。親戚だと嘘がつけない程には

何より、目に見えて動揺している彼には自信がなかったのだろう
彼を心配させず完璧に彼を騙しきることが

だから黙るしかなかった


だが、そんな彼の姑息な逃げも暁にとってはただ付け入る隙でしかない


「おい、あんた…」

「いつもはもっとキャンキャン噛みついてきよるやないか。どないしてん?借りてきた猫みたいに大人しゅうなって…」


いつも、という言葉に青年が訝しげに暁を凝視し、椎名の表情は苦しげに歪む

言葉のひとつひとつが彼を確実に追い詰めていくのがわかる


それを楽しいと思うと同時に、あの椎名にこんな顔をさせるこの青年に少しもやっとした感情が滲み出る

そうか、これが嫉妬というものか


そう思った時肩に鋭い痛みが走る

「手を離せ」

静かな、だが強い怒りの念の篭った口調で彼が言った

並の人間なら気迫だけで竦み上がっていたところだが、暁はにぃ…と笑んで痛みさえも意に介さないまま、椎名の唇に自分のそれを重ねた

「っ?!」

「また今度遊んでや、な?」

唇を少し離し吐息のように囁いた言葉に憎悪の瞳が二方向から突き刺さる

それをなんでもないことのように受け止めながら暁は立ち上がって椎名から離れると掴まれた手をまるで埃を落とすようにぱっと軽く払った


「最近のお子様っちゅーのは怖いなぁ」


言いながらも彼の態度は何も恐れてなどいないそれであった

ひょいと肩を軽く竦めてから二人の間から離れて背を向けるとひらひらと後ろ手に手を振りながらそのまま去っていった




「…裕介」

重苦しい空気の中で竜也兄がそっと椎名に声をかける

だが椎名は顔を俯かせて竜也兄の方を見ようとしなかった





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